nowhere HAYAMA
葉山の対話 2023ー2025 8

漁師さんや農家の方のために
私ができることって、
食べ方の提案だと思うんです。

高木奈美さん Nami Takagi

町制百周年の対話プロジェクトがスタートした当初、
葉山の人たちとつながりが少なかった僕たちは、
プロジェクトのアドバイザーでもある
高田明子さん(葉山環境文化デザイン集団)にすすめられるまま、
何名かの人たちにお会いした、
その一人が高木奈美さんだった。

当初、奈美さんが仲間と始めた
「夏みかんプロジェクト」のことを聞くつもりだったのだけど、
イタリアでの料理との出会いに始まって、
葉山の漁業のこと、環境のこと、教育のこと……、
食をキーワードに、気がつくと話は多岐にわたっていった。

食べること、料理することを通して、人と地域をつないでいく。
コーヒーを飲みながらのほんのひと時、
エネルギッシュで、でも、ポカポカと暖かい、
奈美さんのたどってきた道のりが
葉山という土地を背景に、おぼろげに浮かび上がってきた。

高木奈美
ミラノ・ロンドンに在10年、本場イタリアンを食べ続け、胃袋で料理の知識をストックし、「料理嫌いの主婦」から「イタリア料理講師」に。即リピートできる「スーパーで買える食材で本場のイタリアンの味」テーマに料理教室を主宰している。 2001年、夫・息子と葉山に移住。以来、葉山の漁師さん・農家の皆さんへの感謝の気持ちを伝えたい想いから、旬の魚や野菜の直売、子供たちを対象にした料理教室などを手がける。また、上皇陛下のご成婚記念に町内に植樹された夏みかんを利活用する「葉山夏みかんプロジェクト」を、地域の仲間と展開中。

収録:2023年6月9日 @カフェテーロ葉山
編集:
長沼敬憲 Takanori Naganuma 
長沼恭子 Kyoco Naganuma
撮影:井島健至 Takeshi Ijima @talacoya921

――奈美さんは、もともと料理はされていたんですか?

奈美さん いえ、葉山に住む22~23年前までは横浜に住んでいて、共働きでサラリーマンをやっていました。
ガンガン働くのが好きだったんですけど、夫の転勤が海外になりそうだと言われたとき、一人で行かせる話ではないなということで、一緒に行った先がイタリアだったんです。
それまで料理なんてほとんどしなくて、お惣菜を買って帰るような主婦だったんですけど、現地で初めて本場のイタリア料理を食べたら、「こんな美味しいものが世の中にあったんだ!」と震えるぐらい感動したんです。

――どちらに行かれたんですか?

奈美さん ミラノなんですけど、当時、イタリア語なんて家族の誰もできなくて、5歳だった息子も現地校に入れてしまったので、みんながみんな「イタリア語を覚えなきゃいけない」というストレスがあったんですね。
だから、食べることだけが幸せみたいな感じで(笑)。
イタリア料理ってすごくシンプルで、面倒くさいということは別になくて、テレビなんか見ると、ずっと料理番組をやっていたりするんですよ。
いまみたいにYouTubeはないんですけど、テレビさえ見てれば何となく真似できる料理が多くて、食べて覚えて、身体で覚えてきたっていう感じですね。

――イタリアにはどのくらいいたんですか?

奈美さん 4年半ぐらいですね。そのまま横移動で、ロンドンに転勤になったんですが、現地では、駐在員をされている方の奥さんとの交流がすごく多かったんです。
ロンドンはまた食文化が違っていて、野菜も日本とちょっと違うヨーロッパの野菜が多くて、「食べたいんだけどどうしていいかわからない」という方ばかりだったんですね。
だから、仲良くなかっていくなかで、「イタリア料理でよければ、教えられますよ」と話をすることが多く、それがきっかけで料理を教えるようになったんです。

――教えるという体験は、ロンドンが初めてだった?

奈美さん ええ。そこから「教えるってこういうことなんだ」と学んでいった感じですね。ただ教えると言っても、自分自身が料理嫌いでイタリアに行って、そこで身につけているから、やっぱり難しいことを教えられないんです。
いまでも単純明快なことしかやってないですが、みんな「簡単だ、簡単だ」と言ってくれましたね。

――すごいですね。習ったわけでもなく。

奈美さん 見よう見まねが一番多いです。現地の奥様たちからいろいろと教わったこともありますけど、特別に料理学校とかに行ったわけではなくて。

――葉山に来られたのは、その後ですか?

奈美さん はい。もともと葉山にマンション持っていて、そこが空きっ放しになっていたので、ロンドンから日本に戻ってきて、久しぶりに日本の生活を始めんです。
そしたら、葉山ってすごく美味しいものが多いなって。私は日本の家庭料理ができなくて、煮物とか言われても全然つくれないんですけど、「このひじきを使ってイタリア料理ができるな」とか、そういう発想でつくるようになりました。
漁師さんや農家さんと仲良くなることで、「美味しい食材をどう美味しく食べてきているのか?」という話を伺いながら、「葉山でとれたものを使ったイタリアン」というスタイルが、私のなかで定まってきました。

Note.1

奈美さんのInstagramより





――葉山の食材というと何が挙げられますか?

奈美さん やっぱり一番はひじきですね。よそには負けないと思うんですが、地味なのがすごくかわいそうで(笑)。お豆とかと煮物にするだけだと飽きちゃうから、皆さん、ひじきはそんなに食べないって言うんですよね。
でも、ひじきを採っている漁師さんに聞いたら、美味しいのはサラダだって。「あの食感はぽくぽくって言うんだよ」って言われて、釜揚げされたものをサラダに使うと、すごい歯ごたえに仕上がって、とても美味しいんです。
釜揚げしてすぐのひじきって、召し上がったことありますか?

――釜揚げはないですね。そう言えば、こっちで買うひじきって、すごく長いですよね?

奈美さん ひじきって、長ひじきと芽ひじきがあって、長い茎のまわりに小さい葉っぱがついていて、市販の芽ひじきはその小さいところだけを乾かして売っているんです。
葉山では長ひじきも売っているので、漁師さんに直接つながっていただけたら、どちらも喜んで売っていただけると思いますよ。

――奈美さんも、そうやってつながっていたんですよね。

奈美さん 長久保晶(ながくぼあきら)さんは、ご存じですか? 葉山で唯一の女性の漁師さんなんですが、私は晶さんにずっとお世話になっていて、彼女が採ってきたものを使ってイタリアンのレシピとか、いろいろと考えさせてもらっているんです。

きょん2 たしか日影茶屋の通りの先にある……。

奈美さん はい、あぶずり港の港内で、毎週土曜と日曜に直売所をされていますね。ほかでも扱っているんですが……、私、ひじき漁にも連れていってもらったんです。

きょん2 ひじきが海のなかでどう生えているのか、それ自体わからない(笑)。

奈美さん もう草なんですよ(笑)。岩場とかに生えていて、長いところが波でひらひらひらひら、海からちょっと出ている岩に登って刈っていく感じなんです。

――船で行くんですか。

奈美さん 大きい船で行って、途中で手漕ぎボートに乗り移るんです。浅瀬ではあるんですが、水深が2メートルくらいあるので、歩いていけるところではないです。

――一般の人も体験できるものなんですか?

奈美さん 私の場合、たまたま人手がなかったからやらせていただいたので、通常は難しいかもしれません。
ただ、採ってきたものを釜揚げしたり、干したりするボランティアはいくらでもあると思います。
あと、わかめの収穫はお手伝いが必要ですね。今年はもう終わってしまいましたが、例年、わかめが3月の終わりくらいで、わかめが終わってすぐ、ゴールデンウィーク前から1ヶ月ぐらいがひじきのシーズンかなと思います。

――なるほど。一度やってみたいですね。

奈美さん ぜひぜひ、真名瀬(しんなせ)が彼女の船場なんですけど、採ってきたわかめをそこですぐに茹でて、干すんですよね。
その作業する人が全然足りなくて。前もって仲良くなっておいたら、彼女から「今日お手伝いできますか?」という連絡が来る、そんな感じです。
天候にもよるので、漁に出れる出れないが、その日の朝にならないとわからなかったりするんです。ひじきも、よくて前の日にわかるかわからないかぐらいなので……。

きょん2 葉山って、漁港はあるのに魚屋さんがないんですよね。どこで魚を買ったらいいんだろうって、よく思います。

奈美さん それは、漁師さんたちも悩んでいるところですね。「どうして葉山の人に一番美味しい魚を届けられないんだろう?」っていう彼女の悩みも、私はすごく共感していて……。
そもそも、自分が毎日食べたいから、彼女と仲良くなったのもあるんですけど(笑)、週末に直売所をやっているので、時間があれば買った魚をさばいてもくれますよ。
ただ、ルートがないんですよね。だから、魚を卸すのも、基本的に飲食店だけですよね。

――奈美さんが調理したものを、どこかでいただけないんですか?

奈美さん それはやってないですけど……、毎週水曜日に、定期便という名前で、それこそ晶さんの魚、もしくは彼女が獲れない時期には佐島の定置網漁、大楠漁港まで朝に買い付けして販売することはやっていますね。
葉山トンネルのところ、元ボンジュールの向かいにあるフィフティーン・ブルワリーってビール屋さんを知ってますか? あのお店の前で彼女の経由の魚と、湘南国際村の小菅さんの野菜を売っていて、その販売係が私なんです。

何が用意できるかはその日までわからないのですが、今週はマメアジ、トビウオと、コノシロなど1500円くらいのお魚のセットと、5、6種類の野菜のセットが中心でした。SNSで発信していることもあって、結構、固定の人も増えてきていて、なかには毎週必ずオーダーしてくれる方もいますね。

――おお、ぜひ行ってみたいですね。

奈美さん いま、毎週水曜日の定期便のほかに、こちらも晶さんと一緒なんですけど、telacoyaさんってご存知ですか?
中尾薫さんという、葉山の長柄を拠点にして小学校と幼稚園を運営されている方がいるんですけど、「お魚の日」といって、晶さんと一緒にそこで月一回、地元の魚をきちんとさばいて、食べるという教育をさせていただいているんです。

――すごい。さばくところからやるんですね。

奈美さん まず三枚おろしは絶対ですね。幼稚園のうちにマスターみたいな(笑)。

――子供たちにできるんですか。

奈美さん できますよ。かわいいなって思うのが、「痛くしてごめんね、でも美味しく食べるからね」って言いながら切っているんですよ。本当に美味しそうな顔して食べるんです。
そういう場面に出会うので、私もやればやるほど感動していて、本当に子供ってすごいなって。
初めは食べることもすごい嫌がっていたのに、自分でやると本当に「美味しい、美味しい」ってよく食べるようになって。最初は、サザエが不人気だったんですよ。硬いし、苦いし、食べると言ってもつぼ焼きぐらいしかないじゃないですか。

だから、サザエを好きにさせたいっていう目標ができて、子供に絶対おかわりさせるぞってメニューを考えて、それで枝豆を混ぜようとまず思ったんですよ。
サザエは蒸すと結構柔らかいので、子供たちには蒸したものを取り出す作業をさせて、好きなように切ってもらって、苦いところも入れて、にんにくとパン粉と一緒に炒めて、枝豆も入れて、最後にレモンをバーってかけるんですよ。

きょん2 美味しそうだけど、子供っぽくない感じも……。

奈美さん でも、すごく食べてくれたんです。やっぱり、枝豆がきっかけになったんですよね。枝豆って意外と子供は好きなので、組み合わせがよかったのだと思います。
それでサザエは克服できたので、子供たちが直売所やスーパーでサザエを見ると、「お母さん、私、サザエをさばけるから買って」って言うようになったっていうんです。その話を聞いて、私も晶さんも泣きそうになりましたね。
そういう食育が葉山でできるといいなと思ってきたし、漁師さんや農家の方のために私ができることって、やっぱり食べ方の提案だと思うんですね。それができて、子供たちの笑顔が見れたのがすごく嬉しかったです。

きょん2 すごいね。サザエが葉山で採れるのは知ってましたが、うちで食べることってないですよね。

奈美さん サザエって、なかなかお料理しないと思うんですよね。それを子供たちがお刺身におろせるってすごいですよね。こうやってグイグイ指を入れて、サザエの身を出していくんですよ。本当に頑張っています。
タコとかも、逃げ出すのを追っかけて、捕まえて。頭を引っくり返さなきゃいけないんですけど、子供たちが3、4人でワーって言いながらやっていて。そうやってつくった料理もちゃんと美味しそうに食べています。

――親御さんたちも参加するんですか?

奈美さん しないですね。子供だけでやるんです、親には包丁を持たせます、許可くださいって言って。それで、卒園式のときに、子供が一番食べてくれたレシピを卒業おめでとうのカードに貼ってお渡しするんです。カードを見たお母さんたちから「やってみました」という連絡が来るのも、すごい嬉しくて。

きょん2 葉山ならではの光景ですよね。

奈美さん そこに携われていることが、本当に幸せですね。

Note.2

わかめの収穫(3月末〜4月末)

ひじきの収穫(4月末〜5月末)


15brewery
https://www.instagram.com/15brewery/
*葉山のビールを量り売り


●葉山海産物直売所 土・日曜10:00〜15:00
https://www.instagram.com/sakana_hayama/
葉山マリーナのすぐ近く、あぶずり港で、毎週日曜に海の幸を直売。日曜には、葉山港朝市も開かれている。




●水曜日の「定期便」 水曜14:30〜16:00
https://www.instagram.com/teikibin/
こちらは、葉山沖の定置網漁で獲れた鮮魚を中心に、乾燥のひじき、旬の野菜のセットなどが購入できる。



一般社団法人Telacoya921。「魚の日」は、telacoyaが運営する認可街保育園「おうちえん」のプログラムの一つ。
https://www.telacoya921.com



左から、中尾薫さん、奈美さん、長久保晶さん


一般社団法人Telacoya921。「魚の日」は、telacoyaが運営する認可街保育園「おうちえん」のプログラムの一つ。
https://www.telacoya921.com


子供だけでやるんです
Telacoyaでは、「子供たちに道具を使って覚えてもらうこと」をまず大事にしています。
奈美さんとのご縁でつながった中尾さんや晶さんとも、じっくり対話したら面白そう。


――こうした料理体験は、どういう頻度でやっているんですか?

奈美さん 幼稚園と小学校で、それぞれ月一回ずつやっています。 学校の授業の一環ではあるんですが、いろいろとアイデアを出しながら、自由にやらせていただいています。

――そうか。授業の一環なんですね。

奈美さん 小学校の場合、そうですね。何かの授業の科目の一つになっていると思います。
ちょうど一昨日もやったんですよ。豆アジがちょうどたくさん取れるので、豆アジとイワシを出して、今月は第一回目だったんで、手でさばくということを教えて。「いやだ、包丁を使いたい」っていう子もいたんですが、「いやいや、手のほうが楽だからやってごらん」って言って。
「気持ち悪いから嫌だ」って言ってたのが、やりはじめて「あれ、簡単だ。面白い」「もっとないの?」みたいになってきて。唐揚げにして、「内臓があるものとないもの、どっちがどういうふうに味が違うか食べてごらん」って。

きょん2 ああ、内臓も食べられるんですね。

奈美さん でも、そこで苦いってわかればいいし、それが嫌なら出してもいいし。美味しいって思うんだったら、「内臓も全部食べてごらん」とか、「そこにお酢と玉ねぎ加えると、もっと味が変わって美味しいよ」って、南蛮漬けを教えたり、そうすると冷蔵庫で何日も持つよっていう話をします。

きょん2 小魚ってあまり売れないこともありますよね?

奈美さん そうなんです。今回の豆アジやイワシは、大楠漁港で定置網で獲ったものを仕入れたんですけど、低利用魚なので、通常は肥料になるんです。漁師じゃないと仕入れられないものなので、晶さんにお願いして。

きょん2 そうか。普通は難しいんですね。こういう小魚ももっと食べられるといいのに。

――葉山の美味しい魚をいただくには、まず水曜日に買いに行って、その魚を料理するのが第一歩ですかね。

奈美さん そうですね。皆さん、普段、買いたくても買えなかったお魚を買って、「さばくのをYouTubeでよく見るようになりました」とかいう人もいて(笑)。
その場で晶さんが「こんな食べ方があります」って話したり、私もSNSとかで、「今日の定期便のお魚はこういうものがあります」って案内はするんですけど。

――まずそうやって広まることが大事ですね。

奈美さん あとは、生きている魚を丸ごと買うっていう楽しみを、みんなに味わってもらいたい。そういうきっかけを求めてる人は結構いると思うんですよね。
まずはどの季節に何が獲れるかということを知って、その季節の魚を調理していただく……、ちょうどいま、潜り漁が6月から始まっていて、潜っていますね。

――潜って、何を獲っているんですか?

奈美さん あわびとかさざえとか貝類ですが、すごくしんどいって言っていますね。やっぱり、何十メートルも一気に息止めて潜って、獲らないとならないので……。
あと、天候によって潜れない日が出ることもありますし、台風の時期は、結構それが多いみたいなんです。

――年間カレンダーみたいなものがある感じですか?

奈美さん 多分、あると思います。ヒジキもわかめもシラスも、解禁日があるので。シラスは、それこそ全然獲れないって言っています、今年。全然獲れないから、船出すと燃料費がもったいないって言っているぐらいです。

――それは気候変動とかいろいろの影響が?

奈美さん 本当に誰かが取り組まなきゃいけない問題を「自然が、自然が」って自然の責任にしていて、漁師さんは本当に困っているんですね。それが生活の糧ですから、私たち一般人は何ができるんだろうっていうのはすごく思います。

きょん2 排水の問題があると聞きますね。

奈美さん 葉山は特に良くないみたいなんですよね。ただ、家庭を責めるわけにいかないので、まわりから「自然に優しい洗剤をみんなで使おう」って言うぐらいのことしか、一般人、素人には言えないなっていうところがあって。

きょん2 やっぱり、垂れ流しにしちゃっているというのが……。

奈美さん その影響が何パーセントかあるっていう話も聞きますが、垂れ流しが悪いことではなくて、昔はそれが栄養になってたこともあるって言われているので、そこが絶対的な問題かっていうとわからないですが、魚が減っているのは確かなので、どうしたらいいんだろうとみんなで考えたいですよね。
葉山の人間が声を上げて、できることって絶対あるような気がするんです。これだけ自然を愛していて、みんなここに住んでいるわけじゃないですか。もしかしたら、山の問題かもしれないって言う話もありますしね。

きょん2 葉山って、山があって海があって、そこに水の流れがあるから、全部関係しているっていうか。

奈美さん 本格的に動いている人がすでにいるのかもしれないけど、まだ見えてきてないですよね。

――やっぱり、葉山のことを知ることから始めたいですよね。いま、 こうしてやっている対話の流れのなかで、知ること、つながることを始めていこうと思っているんです。

Note.3

telacoya921「おうちえん」での「魚の日」のシーン











――奈美さんは、もうひとつ「葉山夏みかんプロジェクト」の運営にも携わっていますよね?

奈美さん はい。今日はその話だと思ってやって来たんですが……(笑)、私一人でやっていることではないので、主婦4人のプロジェクトとして聞いてもらいたいんです。
葉山のあちこちに、夏みかんが植わっていますよね? じつはこれって、いまから65年前、現在の上皇さまと美智子さまのご成婚の記念樹として配られたものなんです。
当時の記録があまりないんですが、この間、町長にお会いしたとき、「2200本の苗を町役場と現在のJA(農協)が配りました」って話されていました。
ただ、65年経って老木になり、木を植えられた方もご年配になり、採られない夏みかんが多いんですね。

きょん2 本当にあちこちにありますよね。

奈美さん はい。ただボタボタと落としてたり、まとめて捨てられたりとか、欲しい人もいると思うんですが、だからと言って、いきなりピンポンってなかなかできないし……、私たちとしては、「夏みかんを余らせていることを、どう感じているんだろう?」ということを知りたかったんです。
もちろん、料理人としては、レモンやライムの代わりにいくらでもなるなっていう思いもあって。いま、台湾リスやカラスの問題で12月ぐらいに採らないと食べられちゃうんですよね。
本来は夏までとっておいて食べるから、夏ミカンなんです。それだったったら甘いんですけど、冬に採ってしまうので、すっぱくてそのまま食べれないんですよ。

――だから、レモンの代わりに使うということですね。

奈美さん はい。あとは木がすごく大きくなってしまって、ご年配の方が採れないとかいろんな問題があるのを聞いていて、それを何とかしたいってずっと思っていたんです。
私、2021年の夏まで5年間、オリンピックのヨットの英国チームのボランティアをやってたんですよ。

きょん2 イギリスでヨットがさかんって聞きますよね。

奈美さん イギリスつながりでやらせていただいていて。向こうから専属でシェフが来ていたんで、シェフのお手伝いみたいな仕事をずっとやってたんです。
じつはそのときのボランティアメンバーの4人で夏みかんの活動をしていて、ちょうどオリンピックが終わったとき、「夏みかんをどうにかしたいと思ってるんだけど」って言って、この4人で立ち上げたんですよね。
いまそれが2年目なんですが、1年目は、まず葉山の広報誌で「夏みかんを余らせていて、あげてもいいよという人がいたら取りに行きます」ということをまず呼びかけたんです。
そしたら、「あげるよ」っていう電話が結構かかってきて、「なんなら高枝ばさみや脚立もいらないからあげるよ」みたいなお年寄りもいて、150キロぐらい集まりました。

きょん2 すごい。それをとりにいったんですか?

奈美さん 行きました。それで、集まった夏みかんを欲しいという人にどんどん配って、みんなに使ってもらいたかったので、レシピコンテストをやったんですよ。2年目の今年は、400キロ以上いただけましたね。

――そんなに増えたんですか。

奈美さん はい。今度はそれを飲食店に配りまくって、夏ミカンメニューを考えてもらいました。
1ヶ月ぐらいのキャンペーンだったんですけど、この期間、このお店で夏みかんのメニューが出てますってお知らせして。それが終わって「さあ、来年どうしようか?」って、いま動き出しているところですね。もうあちこちからお声がけをいただいていて、来年は給食につなげたい気がしています。

――収穫がもっと増える?

奈美さん そこを私たちの目標として、これから広報していかないとならないですよね。
給食につなげたいと思ったのは、やっぱりまず子供という思いがあるからですね。子供たちに注目してもらって、「葉山の夏みかんの木を、大人になるまで大事にしなきゃ」って思ってもらえたら、本当に嬉しいですよね。

――夏みかんの木って、古くなっても大丈夫なんですか?

奈美さん いえ、どれももう老木なので、新しい木も増やしていかないとならないですよね。もう本当やらなきゃいけないことは山積みなんですよ(笑)。

きょん2 切らなきゃいけなくなってきているんですか?

奈美さん いや、手入れができない人が多いんですよ。ご年配の方が多くて、手入れをしてないとやっぱり美味しいものができなかったり、逆に枝が伸びてしまって、木登りもできないような状態になっていて、採るに採れなかったり。
そういう問題があったりするので、4人でできることって本当に限られているという思いがあって、いまは役場とか商工会とか観光協会に、声をかけはじめたところなんです。
私たちのような主婦の力でどれだけ動かせるかという挑戦でもあるんですけど、ボランティアでやっているだけなので、助けは必要だなと感じていますね。

――夏みかんプロジェクトとしては、これからどんなことをやっていきたいですか?

奈美さん 葉山に夏みかんの木がそもそもどれぐらいあるのか? 誰も把握してないんですよ。役場も知らないし、まして好きで植えている人もいるので、全体を把握して、できれば夏みかんマップをつくりたいですよね。
もちろん、捨てているんだったら有効活用したいという思いが強いですし、まして、葉山の人たちにとって大事な記念樹なのに、いまみたいな扱いでいいのって。町長にもいろいろと言わせてもらったんですけど、本当にそう思いますね。
毎年の収穫をどうするか考えつつ、少しずつ土台をつくっていきたいなと思って動いています。

――去年の400キロも、全体のどれぐらいかもわからない?

奈美さん 全然わかんないです。本当に有志で動いて、「うちの夏みかん採っていいよ」っていう連絡をもらっているところから集めているだけなので……。
私たちからくださいとは言ってないですし、わざわざ連絡してくださる方だけで、いまの量なんですね。

きょん2 もっとあるってことですよね?

奈美さん 何十倍もあるとは思うんですよ。

――そしたら、本当に地元の名産とは言わないけれど……。

奈美さん そうなんです。だから、葉山全体が本当に夏みかんという名産を使って、一人一人がメニューを持っててもいいぐらいだと思っていて。今回それに賛同してくれたお店が20店舗ぐらいあったんですけど、でも皆さん、「本当に美味しくつくらせてもらいました」って言ってくれて。

――具体的にこうやって聞く機会がなかったので、本当にもったいないなと思いますし、驚くことばかりです。

奈美さん それこそ飲み屋さんはお酒にしましたし、健康ドリンク、スムージーみたいなものをつくった方もいるし、ケーキにもなりましたし、ピザにもなりました。私もパスタだったり、料理のもういたるところに入れましたね(笑)。

――期間中、一般の人も受け取ったりできたんですか?

奈美さん 今年は、協力してくれたお店に4、5個はいつも置いておいてもらうようにして、「お客さんが欲しいって言ったらどんどん配ってください」ってお願いしました。
それで「足りなくなった」って電話かかってくると、私たちがまた補充しにいく感じで。

きょん2 夏みかんを保管するのも大変ですよね?

奈美さん 大変でした(笑)。寒い時期だからまだいいんですけど、どんどん採っては配り、採っては配りで。いずれはステーションみたいなものをつくって、私たちを通さなくても夏みかんを持ってきてくれたり、ほしい人が取りに来たり、そういう仕組みもつくっていきたいですよね。車でまわって、取りに行くのにも限界があって、一回に50キロぐらいしか運べないので。

きょん2 葉山に給食センターもできたので……。

奈美さん それもありますよね。子供たちに渡したいからって言ったら協力してくださる人も増えるんじゃないかなって、ちょっと企んでいるんですけど(笑)。
あとは、夏みかんを提供してくださった方にちゃんとお礼ができるといいなと思いますね。

きょん2 高齢者の方が多そうなので、夏みかんを通じて、子供たちとつながれたらいいですよね。

奈美さん そうなんですよね。給食にお呼びして、お話を伺ってもいいですしね。実際、80歳ぐらいの元気なおじいちゃんが、「子供の頃、こんな木だったんだぞ」って写真を見せてくれて。いままではまわりに配っていたんだけど、年をとって配るのも大変だから受け取ってくれって、400個もいただいたんです。
その方、鳶(とび)職をされていたらしく、自分からボンボン採ってくれて。本当にありがたかったです。

きょん2 いいですね。奈美さんのお話を聞いていると、海のもの、山のもの、葉山の豊かさを感じます。

奈美さん とにかく美味しいもの、もしくは美味しくなれるものを大事にしたいなって思っています。私はもともと簡単なものしかつくらないので、工夫次第で美味しくいただけるっていうことを伝えていきたいですよね。夏みかんにしても、カレーにかけるだけで美味しいんですよ。

Note.5

葉山夏みかんプロジェクト
https://www.instagram.com/hayama_summer_orange/


プロジェクトメンバーの北岡信子さん、高木奈美さん、鈴木秋穂さん、齋藤由美さん(写真左から)


夏みかんの収穫、引き取り風景



夏みかんの活用例
① 夏みかんのピザ(Pizzeria CANA)

② 葉山夏みかんラベンダータルト(ニコラ&ハーブ)

③ 夏みかんのクリームソース(「給食に取り入れたいレシピ」)

④ 葉山夏みかんこんにゃく(ワークショップで紹介)


① 夏みかんのお清塩(森戸神社)

② 夏みかん色の手ぬぐい(夏みかん収穫祭限定)

③ 葉山の夏みかんカラーサンダル(御用邸130周年記念)

④ 夏みかんポン酢

⑤ 夏みかんタバスコ


――夏みかんのエピソードで思ったんですが、葉山の魅力って、御用邸があるところも大きいですよね。

奈美さん そうなんです。御用邸がある町というのが、私たちのボランティアの始まりでもあるので、余計にそう思いますね。
お世話したイギリスチームの人たちが、おなじ王室の国だったこともあって、「御用邸がある町って本当すごいよね」って、葉山をとことん好きになってくれたんですよ。
それで、「もっと自信を持って住まなきゃね」って思えるようになったのも大きかったと思います。世界から見た葉山って、安全で、過ごしやすい、いい土地なんですよ。

きょん2 だから、いらっしゃったんですかね?

奈美さん それもありますし、あとはやっぱり(オリンピックの会場になった)江ノ島から適度に近く、葉山マリーナから船でちょうど行ける距離だったこともありますが、海もあり山もある、このぐらいの田舎感が好きだったみたいです。
外国の人が5年間も通って、愛してくれた町なんだから、本当に誇りを持つべきだなって思いますね。

きょん2 あぶずり食堂にお昼に行ったら、イギリスの方が普通に入っていて、親近感湧きました(笑)。

奈美さん 味平のラーメンが大好きだったんですよ。それから友琉館の焼肉を、お店の肉がなくなるくらい食べたとか、カーナ(CANA)さんのピザってわかります? みんな大好きだったんです。いろんな逸話がありますね。

――ラーメン、好きだったんですね。

奈美さん 若い子だから、ガツガツ食べちゃう。アスリートですし、制限があるから、毎日は食べちゃいけないらしいですけどね。シェフは監視していたはずです(笑)。しおさい公園にも足を運んで、すごい楽しんでいましたね。

――葉山っていい町なんだなって、あらためて思えました。もっと対話を重ねていけば、いろんな化学変化が起きそう。奈美さんとも、またお話ししたいです。

奈美さん はい、いろいろな人とつながって、もっといい町にしていきたいです。ぜひ対話でお願いします(笑)。

――はい、ありがとうございました。

Note.7


ナポリ・ピッツァの店「Pizzeria CANA」。
https://www.instagram.com/cana_hayama_/


「あぶずり食堂」「味平」は閉店