nowhere HAYAMA
葉山の対話 2023ー2025 4

知り合いの知り合いが、
じつはいますごく
必要な人だったりするんです。

清水淳さん Jun Shimizu

葉山の風早橋のあたりは、
一色に住んでいる僕たちにとって、意外に遠い。
これまで、逗子からのバスで通り過ぎるだけだったけれども、
今回、町制百周年のプロジェクトで、
清水淳さんとのご縁が生まれ、
風早橋にある「かざはやファクトリー」へと足を運んだ。

古民家をリフォームしたシェアオフィス。
雨がやや強く降りしきるなか、
笑顔の清水さんと、一匹の大きな犬が迎えてくれた。
壁を取り払った屋内は開放感があり、
どこか葉らしい、ちょっとおしゃれな雰囲気がただよっていた。

人と人がつながることで、エネルギーが生まれ、
そこから新しい営みがはじまっていく。
プロジェクトが、そして、仕事が立ち上がってくる。
雨音をBGMのように聞きながら、
清水さんとの対話が静かに始まった。

清水淳
1973年、神奈川県真鶴町出身。大学卒業後、都内の設計事務所に勤務したのち、2010年、葉山へ移住、「アーキラボ 一級建築士事務所」を設立。2015年、シェアオフィス「かざはやファクトリー」を開設し、現在に至る。

収録:2023年6月9日 @かざはやファクトリー
編集:
長沼敬憲 Takanori Naganuma 
長沼恭子 Kyoco Naganuma
撮影:井島健至 Takeshi Ijima @かざはやファクトリー

――ここには、どのくらいの人が参加されているんですか?

清水さん いまは14人ですね。ずっと一人で仕事をしてきたので、「もっと横のつながりができたらいいなあ」と思ったことが、もともとのコンセプトにあるんです。
 といっても、普段はそれぞれバラバラに仕事をしていますから、メンバー全員がいつもいるわけではないですね。だから、時々ランチミーティングをやったり、夜にちょっと酒を飲んで話したりして交流したりしています。

――メンバーの入れ替わりはどのくらい?

清水さん 入れ替わりはありますけど、そこまで激しくないんですよ。いま10年目なんですけど、オープンした当初からいる人がまだ2、3人残っていたりするので。

――結構、定着されているんですね。たしかコワーキングスペースもあるんですよね?

清水さん シェアオフィスとは別に友人と始めたんですが、なんとなくやってる感じですね(笑)。こっちのシェアオフィスはわりと固定されているので、フリースペースで身軽に仕事をする人たちの感覚ってどうなのかなと。
 隣の家屋を使っているんですが、結構入れ替わりが早いですし、本当に両極だなって感じますね。

――もともと建築の仕事をされてきたんですよね?

清水さん そうですね、設計がメインです。だから、工務店のような建築や工事とかはやらないですが、たまに設計の手前というか、コンサル的な仕事もやったりはしますね。

――葉山との関わりはシェアオフィスのほうが強い?

清水さん いえ、建築の仕事も、いまはほぼ葉山、逗子……、鎌倉、横須賀ぐらいが多いんです。だから、もう5年くらい、東京に仕事しに行ってないんです。刺激があるし、たまに何かあればいいなと思いますけどね(笑)。

――うちもそうですけど、あまり都内に出なくなっちゃいますよね。もともと都内で暮らしていた?

清水さん そうですね。15年前くらいに葉山に移住してきました。

きょん2 私たち葉山に引っ越してきて10年ぐらいなんだけど、このシェアオフィスがオープンした時、(ポスティングされた)チラシを見たのを覚えてますよ。

清水さん 本当ですか?

きょん2 うちも家で仕事をやってますし、私、家の間取りを見るのがもともと好きなので、シェアオフィスってちょっと憧れがあったんです。だから、「いいな、こういうところ」って、結構ガン見してたのを思い出しました(笑)。

清水さん それは嬉しいです。

――まずシェアオフィスをオープンして、コワーキングスペースを始めたのはそのあと?

清水さん そうですね、シェアオフィスをオープンしたのは2015年、コワーキングスペースはその3年後ですね。
 建築の設計がメインの仕事ですから、その意味では、どちらもおまけみたいなものではあるんですけど……、私自身、ここで仕事ををしていますし、気持ちとしては、どちらが主流かわからないところはありますね(笑)。そもそも、自分の仕事場が欲しかったところから始まったので……。

Note.1





開放感あるシェアオフィス@かざはやファクトリー
https://kazahaya-factory.com


――そうか、ここが清水さんの仕事場なんですね。

清水さん (テーブルの向こうを指しながら)そこが私の仕事場なんですよ。家は長柄なんですけど、犬と一緒に毎日ここに通って働いていますね(笑)。

――みんなで何かをやるのが良かったんですか?

清水さん そうですね。もともと、自宅の4畳半の部屋で仕事してたんですよ。だけど、「今日一日、誰ともしゃべらなかったな」みたいな日が続くと、何て言うんですかね……、「人としてどうなの?」みたいに思いはじめちゃって(笑)。
 で、無理やり講師の仕事をしたりとか、人としゃべる機会をつくったりしてきたんですが、やっぱり自宅と事務所が一緒っていうのが嫌だなと思って。なぜなのかな……、移動しないで済みますし、本当はすごくいいんですけどね。

きょん2 メリハリはなくなりますよね。

清水さん それですよね。だから、とにかく外に何か借りようと思って。ただ、借りた先でも一人じゃしょうがないですよね。それで隣の人が会社みたいなシェアオフィスがいいなと思って、無理矢理つくったっていう感じですね。

きょん2 開放感がありますよね。ここまで吹き抜けになってると思いませんでした。

清水さん まわりの声も聞こえるし、おたがい何をしているかも、なんとなくわかるから。

――そういうところは、最初から全然OKだったんですか?

清水さん 僕自身、会社でずっと仕事をしたので、同じフロアに別の部署があったりとか、そういう感覚と変わらないです。カフェで仕事をするとかも同じですし。

きょん2 でも、シェアオフィスって、普通はちゃんとパーテーションに仕切られてませんか?

清水さん 確かに、普通はそうですよね(笑)。

――みんなで一緒に空間を共有する感じがいいですね。わりとつながっているように見えますが、月に一回とか、みんなで話し合う場も必要になってくるんですか?

清水さん 結局、今日みたいに雨が降っていると僕しかいなかったり、みんな自由に動いている感じなので、よく来る人と来ない人っていうのがまずありますよね。
 あと、いてもなかなかお互い話しづらいみたいなところもあるのかもしれない。話す人は話すけど、聞かないと話さない人とかもいるかもしれないですし。

きょん2 そういうところはありますよね。

清水さん やろうってなると結構みんな来てくれたりするし、その日は、「じゃあ、ここで仕事しようか」みたいになったりね。

きょん2 自由なんだけど、たまにそういう制約があるとつながりやすいのかも。制約が嫌で辞めてる人が多いんだろうけど、ないと動かないっていうのもあるし。

清水さん フリーランスって、どうやって仕事を取るかみたいなところが課題だったりするじゃないですか。特に技術系の人たちって、そうだと思うんです。
 だから、ここで人がつながることで、新しい仕事が生まれるきっかけになればいいなって。

――ここで集まった人たちと協働して?

清水さん はい。シェアオフィスを始めた当初から、そういうこともイメージしていましたね。

Note.2


――どういうお仕事の方が多いんですか?

清水さん 職業は、本当にまちまちですね。(デスクを指しながら)ここの彼女は編集者で、その隣はウェブとかのシステムをつくる人。あと、ドローンを飛ばす人がいて、彼は企業コンサルみたいなこともしているし、ほかにも司法書士さん、映像屋さん、ライターさん、漫画家さん、写真家さん……。

――みんな、葉山の周辺?

清水さん そうですね。だいたい葉山で、あとはやはり逗子、鎌倉あたりが多いですね。

――それだけの方がいれば、一緒に何かできるかもって思いますね。

清水さん わかりやすいケースでは、店舗の建築で新規のデザインのような仕事が入ってくると、じゃあ、ロゴを頼もう、チラシを頼もう、文章をつくろうみたい感じで、一まとまりでつくりやすいということは、過去にいくつかありましたね。
 あと、そうやってまとまってやることだけでなく、「ここに来たら何か解決するかも」みたいな、ある種の広告代理店みたいな感じになれたらいいなっていう思いもなくはないですね。売り出し方はよくわからないですけど(笑)。

――複合して有機的にっていうところですよね。

清水さん そうですね。一応、シェアオフィスというハードな部分だけではなく、そういうソフトなところもシェアできればいいなって、それも売り文句なんですけど。

――皆さんいろいろやっているのに、横のつながりがよく見えてないところってありますよね。葉山の全体が、もう少し俯瞰的にとらえられたらいいなという思いがあって。

清水さん そういうつながりって、たしかに課題だと思うんですよ。知り合いの知り合いが、じつはいますごく必要な人だったりすることって、結構あると思いますから。
 同時に、そうした課題をこの小さな町にいるみんなで解決したいっていう思いもあると思うんですね。そういう見える化ができたら、本当にいいですよね。

きょん2 ここって、その雛型になってるんだなって思うんですね。しかも、専門分野だったら何でもいいんじゃなくて、ここに集まれる感じ方の人だからいいというか。

――葉山に住もうと思っているような人だからつながりやすいっていうこともあるなって思うよね。

清水さん (つなげることが)ライフワークになっちゃいそうですね。ぜひお願いします(笑)。

Note.3






清水さん つながりの話がでましたが、商工会とか消防団とか、そういう昔からある、地元の人たちが多く集まっている組織にも、私は入っているんです。

――そうなんですか? そういうつながりって、外から来ると意外とわからないんですよね。

清水さん 私自身がそうなんですけど、昔から地元にいた人たちだけでなく、よそから来た人とかもいて、そのなかにはサラリーマンやっている方も入っていたり……。
 その意味では、そういう古い組織も徐々に形が変わりつつあるなって感じますし、地元に根づいた組織と新しく生まれた組織の接点も生まれつつあるんですよね。

――ここも新しく生まれた組織の一つですもんね。

清水さん そう言えるかもしれないですよね。個々に仲良くなって、それぞれ混ざり合っていったらいいなと思いますね。実際、お互いがそれを求めていると思うので……。

――そもそも、葉山がなぜいいと思われたんですか?

清水さん 僕は、もともと真鶴の出身なんです。

――ああ、真鶴。僕たちも何回か行ったことあるんです。真鶴の森(魚附(うおつき)保安林)にも入りました。

清水さん 小さい頃は怖くて、「悪いことをすると、夜にあそこに下ろしちゃうよ」って言われたりしたんです(笑)。人口は減っていますが、いいところでしょう?

――はい。地元に帰ろうという感じではなかったんですか?

清水さん もちろん帰りたかったですけど、都内で仕事をしていたので、真鶴からだと通えないんですよね。電車で通えたとしても、小田原までなんですよ。

――なるほど。葉山なら通えますね。まあまあ遠いですけど(笑)。

清水さん そうなんです。高校まで小田原に通っていたので、ここも地元みたいなものですけど、まだ遠い。葉山は「もうちょっと東京に近いところ」という感じですかね。それから、海の近くで子供を育てたい思いも根底にありました。

――どこかで葉山を意識していたんですね。

清水さん まあ、東京に住んでた時、オートバイに乗っていたので、ちょいちょい気分転換で来ていたりしていたんですよ。もともと、なんとなく好きな場所でしたから。
 
――葉山の環境は気に入ってますか?

清水さん やっぱり住みやすいですよ。人もいいですし、海にも山にも近い感じでね。
 前はサーフィンや釣りも少しやっていましたが、いまは犬を連れて山に歩きに行ったりはしますね。

きょん2 (目の前の犬を指しながら)この子と一緒に?

清水さん そうなんですよ。毎日24時間、家でもここでも、ずっと一緒に連れていますよ(笑)。人がいないところで(首輪を)外すと、ずっと走り回っていますね。

――そもそも、この場所はどうやって見つけられたんですか?

清水さん 昔、この奥の家を借りていて、こちらにはおばあちゃんが一人で住んでいたんです。で、その方はこの建物の半分をピアノをやっている方に貸していて、うちの妻が産休中によくピアノを弾きに通っていたんですね。
 その方が亡くなられた時、ちょうど事務所になりそうな物件を探していたこともあって、片付けに来ていたご子息の方に相談をしたたら「ぜひぜひ」と言ってくださって。そこから改修工事をして、使うようになった感じですね。

――なるほど。普通のお家だったんですね。どんなふうにリフォームされたんですか?

清水さん (あちこち指しながら)ここが八畳間で、あとは床の間があって、奥にまた一部屋、それから和室もあって……、2階もありましたけど、物置になってましたね。

――そういう間取りを活かしつつリフォームして?

清水さん まあ、リフォームと言っても、壁を取り払って、柱を一本だけ外したくらいですよ。

――壁を外したから開放感が出たんですね。(壁の上を指して)あの鶴ももともとあったんですか?

清水さん あれは、シェアオフィスのオープンにあたって、知り合いの左官屋さんに書いてもらったんです。ああいう鶴の型があって、それでコテを使って描かれているみたいです。ほかにも竹林とか描いてもらいました。

――シェアオフィスを始めて、最初はどんな感じだったんですか? すぐに人は集まった?

清水さん 最初、一生懸命に募集したので、この葉山界隈にはある程度情報が行き渡ったのかもしれません。それもあって、3~4ヶ月で埋まったんじゃないかな。

――それだけ需要があったんですね。

清水さん まあ、あるだろうなっていう当て勘です(笑)。自分と同じように思っている人も多いだろうと。

――そこからずっと継続して……。

清水さん 図書館なんかはコロナの時にすごく人が増えたという話を聞いたことがありますけど、うちはあまり関係なくここまで続いてきたところはありますね。
 あまり入れ替わりがなかったんで、(最初以外)募集をする必要がなかったっていうのもありました。抜けてしまっても「知り合いが入りたがってるよ」みたいな感じで、すぐに入ってくださったり、それでいまに至ってますね。

――皆さんって気に入ってくださってると。

清水さん ということだと思うんですけどね(笑)。「これはこうしたほうがいい」とか、たまに怒られることもあるから、そこは直していきたいと思いますけど。

Note.4

真鶴の出身
伊豆半島の付け根にある真鶴半島。


目の前の犬を指しながら


リフォーム
リフォーム中の「かざはやファクトリー」


知り合いの左官屋さんに書いてもらった


――このテーブルで何かやったりはしないんですか? ワークショップとかお話会とか……。

清水さん 月に一回ぐらい、英語で物をつくる先生がいますね。あとは、シェアオフィスの中にいる人がワークショップやったり、それこそ味噌をつくったり。葉山芸術祭に参加した時は、このスペースを使ってやりましたね。

――芸術祭では何をやったんですか?

清水さん ここにいるメンバーの写真家さんとイラストレーターさんがキャラクターをその場でつくって、システムエンジニアの人がそのキャラクターをアニメーションにして動かすという……、なかなか面白かったですよ。
 葉山芸術祭は、もともと実行委員をやってきているので……。

――エエッ、そうなんですか?

清水さん 関わるようになって9年くらいですかね。

――森山神社の境内のライブとか、毎年すごいですよね。いろいろと準備も大変じゃないんですか?

清水さん 昨年は6人で、今年から2人加わって8人でやっています。完全なボランティア作業なので、募集開始から会期中までの半年間、結構な作業量があって大変ですが、いろいろと刺激もあるので楽しく関わらせてもらっています。

 あと、芸術祭には運営とは別に、HAFSという調査研究チームもあって、妻(清水明絵さん)が研究員の一人として関わっているんです。毎年、 資料整理、アンケート調査、ヒアリングなどを通して活動内容を振り返るということもやっています。

――すごいですね。いろいろな形で地域と関わっているんですね。葉山芸術祭って確か……。

清水さん ことし(2024年)で32回を数えるので、息が長いですよね。HAFSは、芸術祭が20年目を迎えた2012年に立ち上げられたと聞いています。

――(テーブルを指しながら)ここを使わせてもらう場合、何か決まりがあるんですか?

清水さん いまは貸し出しはしてないですが、対話会を企画するのはいいかもしれないですね。面白いと思います。
 あと、SEE THE SUN(シー・ザ・サン)って知っていますか?
ここの運営元の会社が、いま(葉山の)堀内にある古民家を本社として使っていて。

――ああ、真砂(秀朗)さんの家の隣にある……。

清水さん そうです。築90年の古民家をリノベーションして使っているんですけど、なかなか素敵な場所で……。
 このスペースをどう利活用できるか相談を受けたこともあって、いま、コワーキングの「かざはやキャンプ」に入ると、こちらも利用できるようにしているんです。

――こっちだけじゃなく、シー・ザ・サンも使えるんですか?

清水さん 料理教室とかロケの撮影とか、単発の利用があるとき以外は自由に使ってもらっています。結構広いですし、森戸海岸にも近く、ロケーションもいいですよね。

――ゆっくり対話して、葉山の人たちの横のつながりが、いろいろな形で見えてきたなって感じます。どこかでご一緒する機会も出てくるかもしれないですね。

清水さん そうなると楽しいですね。

――今日はありがとうございました。

清水さん はい。こちらこそ、ありがとうございました。

Note.5

葉山芸術祭

葉山町を中心に、湘南地域のアーティストの参加、毎年ゴールデンウィークの時期に開催するアートフェスティバル。
https://hayama-artfes.com

会場は葉山、横須賀、逗子、鎌倉のオープンハウス(=参加者のアトリエ、店舗、自宅や庭先など)、海岸、神社境内、公共施設など。

日本各地に広がったアートプロジェクトの先がけとして、1993年にスタート。


メイン会場の森山神社境内・一色会館。



葉山芸術祭のキービジュアル。上・第32回(2024年)、下・第33回(2025年)


HAFS
葉山芸術祭調査研究プロジェクト
(Hayama Art Festival Studies)
https://www.hafs.jp


SEE THE SUN(シー・ザ・サン)
SEE THE SUN葉山
https://seethesun.jp