藤本嶺さん Ryo Fujimoto
藤本嶺
1990年、神奈川県横須賀市田浦生まれ。葉山町上山口在住。幼い頃から森のそばで育ち、自然とともにある暮らしを体験的に学ぶ。逗葉高校卒業後、大工の道へ進み、2017年に葉山・上山口を拠点に「藤本工務店」を設立。国産材と伝統工法を用い、「土に還る家づくり」を実践している。
森林とのより深い関わりを求め、2021年、「一般社団法人 葉山の森保全センター」(HFC)を立ち上げ、地域の仲間と葉山の森の整備や活用に取り組む。また、2023年、木のある暮らしを多様な形で提案する「森のサラダ」を創業、杉材でつくられたフィットネスジム「&FOREST HAYAMA」を開設。
収録:2023年10月20日 @カフェテーロ葉山
編集:
長沼敬憲 Takanori Naganuma
長沼恭子 Kyoco Naganuma
撮影:井島健至 Takeshi Ijima @唐木作の森
藤本さん 僕は今年34になるんですけど、(葉山の)逗葉高校を卒業して、大工になって8年、2017年に藤本工務店を幼なじみの佐々木達哉くんと2人で設立しました。
その後、2021年に葉山の森保全センター(HFC)を設立して、いまは「森のサラダ」という会社を新たにつくって、まだ始まったばかりですけど、「& FOREST Hayama」というフィットネスジムの運営を始めています。
もうちょっと自己紹介しますね。僕は大工なんですけど……、こういう家をつくってるんです。
(写真を見せながら)これは「石場建て」といってうちのモデルハウスなんですが、基礎がないんです。通常の住宅って、コンクリートの基礎の上に建っていますよね?
この家は、基礎の代わりに石を置いているんですが、この石は小松石と言って、約35万年前、箱根火山の溶岩が急速に冷えて固まった石なんですね。
百年ほどの歴史しかないコンクリートに対して、こうした天然の礎石の歴史ははるかに長く、現存する石場建ての建築は1000年以上にも及びます。
また、この石の上に乗っている建物の構造材は、国産のスギ、ヒノキ、マツを木材として使っていて、こちらも1000年以上前から伝わっている、釘などを使わずに木を組み合わせていく伝統工法を取り入れています。
壁は木を組み合わせて建物の構造を成立させていく伝統技法、竹小舞・土壁でつくっています。
竹を荒縄で編んだところに土をつけて壁をつくったり、外壁に杉の板を張ったり、全体的にとてもシンプルで、素直な住宅の建築を専門にしていますね。
こうした工法をなぜやっているのか? 簡単に言うと、土に還る素材でつくるので環境にいいんです。
材料の調達も身近なところからできるし、寿命も長い、家が役目を終わって壊した時にほとんどが土に帰る、産業廃棄物にならないという利点があるんです。
もちろん、日本の古くから伝わる技術を守り、職人を育てることも大事だと思いますし、あとはこうしてつくられた家って、単純に気持ちいいですよね。
―― 葉山の竹を使っているんですか?
藤本さん いや、葉山の竹でやりたいんですけど、葉山には孟宗竹という竹が多くて、あまり竹小舞には向いていないんです。向いているのは真竹なんですよ。
あめみー 斜面地に生えているから、曲がっているんですよね。
藤本さん はい。そういう意味では、やっぱり、竹って使うものなんですよね。本来、暮らしのなかにたくさん取り入れていけたのに、それをやめてしまったから放置竹林が目立ってきたというのは、理由としてあると思いますね。
藤本工務店
https://1616492401.jimdofree.com
葉山の森保全センター(HFC)
https://www.hayamanomori.org
森のサラダ
https://www.instagram.com/morinosalad/
藤本工務店のモデルハウス
基礎がない石場建ての住居。35万年前の溶岩石を使用。
竹小舞・土壁
たけこまい・つちかべ。昔の民家や町屋、蔵に多く使われていた。
あめみー
雨宮正治さん。HFC会員。葉山周辺の森、農、食にさまざまな形で関わっている一人。
藤本さん それからもうひとつ、去年、「森のサラダ」という会社を始めたんですが、HFCと藤本工務店は川上(林業)と川下(工務店)、ともに木を扱う仕事ですよね。
つまり、木を伐って、それを使って何かをつくる仕事をしていると、森林資源がたくさん採れるわけです。
そういう資源を使った、工務店でもないけど、林業でもない、木こりでもなければ、大工でもない、木を生かした仕事ってたくさんあるんじゃないか? そういうビジネスをやっていくためにつくったのが、森のサラダです。
―― 森のサラダという名前にしたのはなぜですか?
藤本さん サラダって、いろんな種類があるじゃないですか。「そういうさまざまな森の資源を使っていろいろなサラダをつくりたいね」っていうことでつけた名前です。サラダというのは、私たちが展開していく事業なんですね。
そこでまず、葉山にはフィットネスジムがないので、フィットネス事業の会社で働いていた友人を誘ってつくったのが、一色にある「&FOREST Hayama」というジムで、こちらの内装は全部日本の杉でつくっています。
ここまで藤本工務店とHFC、森のサラダの関係について話してきましたけど、肝心のHFCってどんな活動をしているのか? まだ話せてないですよね。
HFCは葉山フォレスト・コンサベーション・センターの略で、正式名称は一般社団法人「葉山の森保全センター」といいます。
(写真を見せながら)こういう人たちが主要メンバーとして動いていて、みんな逗子葉山周辺に住み、本業を持ちながら、葉山の森の保全に関わっています。
実際にどんなことやっているかというと……、ざっくり言えば森林整備事業や危険木、支障木の伐採事業ですが、専門用語すぎてわかりませんよね(笑)。
もっとざっくり言うと林業なんですが、林業ってやることがたくさんあるんです。
人里に近い森から離れた森、町の中にいたるまで、様々なところで伐採、間伐、道づくり、草刈り、植林、きのこ栽培……。
あとは、明るくきれいになった森のなかでワークショップやイベント、アウトドアスポーツをしたり、とにかく森林資源を活かして様々なことをやっています。
あとは「森林未来会議」という会議を今年の3月に、葉山の福祉文化会館で開催しました。
150名ほどが集まるなか、林業界で先進的な取り組みをしている4人のゲストを呼んで、「三浦半島の森林をどうすればいいのか?」をテーマに議論をしてもらいました。
このほかにも、子供向けの木工体験で木でジャングルジムをつくったり、ロープを使ってツリークライミングの練習とか、あとはメンバーの自己研鑽ですね。
木をロープで牽引したり、吊り下げる練習したり、間伐した竹で小屋や薪棚をつくったり、椎茸を栽培したり、春には森について勉強しながら野草を食べたり、本当にいろんなことをやってます。
それから、踏査っていうんですけど、毎月一回、「葉山の山がどんな状態なのか?」を知ることを目的に山に入って、ひたすら歩いたりもしていますね。
あと、HFCの会員の皆さんと危険木や間伐材で大きな木のブーケをつくって海へ運び、ダイビングショップNANAの佐藤輝さんのメンバーの皆さんに協力していただき、毎年、海底にアオリイカの産卵床をつくっています。
こうした活動を通して実現させていきたいのは、三浦半島という場所で、この土地に合ったスタイルで、危機に瀕している林業を自立させるということです。
日本の林業は、国の補助金ありきという形で成り立っている部分があるんですが、なるべく補助金に頼らず、地域のなかでお金を回して森の管理とか整備に充て、その地域内で林業を自立させていくことを考えています。
「そもそも森に入る必要あるんですか?」「木を切る必要はあるんですか?」といった疑問もがあると思うので、どんどん質問してもらって、できるかぎりお答えしたいですね。
Wellness Studio
&FOREST Hayama
https://andforest.jp
こういう人たちが主要メンバー
森林未来会議
葉山を含む三浦半島の森の現状を知るきっかけとして、2023年2月に開催した「森林未来会議2023 in 葉山」。
佐藤輝さん
https://nowhere-japan.com/hayama/articles/006/
アオリイカの産卵床の設置
子供向けの木工体験
こうすけ 森と対話するという言い方があるんですが、藤本さんはそういう感覚ってありますか? たとえば、大工の仕事として見た場合、「この木はここには合いそうだ」とか、そういう微細なことをいろいろと感じていますよね?
藤本さん なるほど。たとえば、(目の前にある)ペットボトルのような工業製品とは、僕は対話できないんですよ。だけど、木に対しては、やっぱりいろんなことを考えるわけです。
やっぱり、生き物なので。たとえば、この木はどこに生えていたのか、南向きだったのか? 北斜面だったのか?
木目を見ながら、この木はこっちに反ってるなとか、そういうことを見ながら、この木はこの柱がいいなとか、家の構造に配置するときに決めているわけです。
こうすけ たとえば、(会場の建物を指して)こうしてつくられたものを見て、何か感じられるんですか?
藤本さん 雨風から人の命を守ってくれているわけですから、本当にありがとうって感じですよね。うーん、どんな感情なのか……、いろんな感情が込み上げてきますよね。
こうすけ 藤本さんにとって葉山の森は美しいですか?
藤本さん 自然という枠で見たら、それは美しいと思います。さまざまな種類の植物が、思うがままに生えているのは、もう美しいの一言です。ただ、人と森という関係性が出てきた途端、美しいと思わなくなりますね。
究極、森なんて別に何もしなくていいんですよ。ただ、僕らは生きているし、経済活動しているわけじゃないですか。
やっぱり、すべての考え方に対して、そこがセットなんですよね。人間が関わっていく以上は、やっぱり危険だったら危険木って名前がついてしまうわけです。
(人に危害の及ばない)山奥で土砂災害が起きても誰も何も困らないけれど、自分の家の近くで起きたら問題になる。
森からしたら同じことなんですけど、やっぱり人間が生きていくためには、そういうふうに定義づけるというか、いろいろなことを割り切ってやらないとならない。
その反面、休みのときに森に入っていると、やっぱリラックスできるし、森のなかで過ごすと集中力が続くといったデータがあったりするわけですよね。
あとはフィトンチッドという木が揮発している成分もあるんですけど、あれって自分を守るために出している。木は動けないので、害虫とかから逃げられないじゃないですか。
そういう身を守るための成分が、人間にとっては気持ち良かったりするわけです。そうしたものを感じるので、「森って最高」という感覚になるわけですよね。
こうすけ
松島宏佑。現代芸術家。当日のファシリテーターをつとめた。
https://studio-aru.co.jp
危険木
生長し、家屋や電線に接触する恐れのある樹木は、危険木とみなされている。
フィトンチッド
森林の樹木が放出する揮発性の化合物。人に対する効果として、次の点が知られている。
1. リラックス効果・ストレス軽減
2. 免疫力の向上
3. 抗菌・消臭効果
4. 睡眠の質向上
5. 集中力・注意力の向上
こうすけ 森っていう空間で感じる心地の良さと、森から切り出した木材でつくられた建物と、それぞれの空間で感じる気持ちよさって、どう違うんでしょう?
藤本さん これも話すと長くなっちゃうそうなんですけど、先ほど紹介した家あるじゃないですか。これは伝統工法といって、昔からのやり方でつくた家なんですよね。
というよりも、昔はそれしかできなかった。車がないから木材を運ぶこともできない、だから、目の前にあるものを使ってつくるしかない。木を切って、竹を編んで、土をつけていけば家になる、そういう家は本当に気持ちいいんですよ。もちろん、森のなかにいるような感じになります。
森のなかのほうがもう格段に気持ちいいんじゃないかなとは思いますけど、それでも気持ちがいい。
ただ、いま日本中にいろんな種類の家がありますよね。
コンクリートの家だってそうだし、鉄骨造だってそうだし、ツーバイフォーとか、在来工法といって、木は使うんですけど、プラモデル見たいな感じに骨組みをパッと現地でつくっちゃう、あとはそこに石膏ボードや壁紙を貼っていく……。正直、そういう家には、僕は住みたくないですね。
洋服で言うと、ビニールのカッパとゴアテックスの違いみたいな(笑)、わかりますか? ビニールのカッパって呼吸しないので、蒸れるじゃないですか。でも、ゴアテックスって呼吸しているから蒸れないないですよね。なんかそういうイメージです。
自然の素材でつくっているというのは、呼吸をしているから気持ちいいんですよね。
―― 藤本さんは、そういう感覚をどうやって身につけたんですか? 大工さんになったから、みんなそういう感覚になるとは限らないですよね?
藤本さん 森のなかで育ったからですよね。二子山の向こう側に田浦ってありますよね? 田浦の山の上でずっと生まれ育ったんで、もう潜在意識に刷り込まれているというか……。
こうすけ 記事で拝見したんですが、ご両親がオーガニック系で、オムツも紙じゃなく布、生ゴミを庭に埋めたり、食べ物も自然なものにこだわったり……。
藤本さん ああ、そうですね。駄目になった生肉を、お母さんが庭に投げて鳥にあげたりするのを、僕が拾って食べていたらしいです(笑)。それぐらい野性的に育てられたという。
あと、基本服を着てなかったんじゃないかな(笑)。2、3歳の写真見ると全部裸です。まあ、山の上に家があって、車も来ないところですし……。
こうすけ そんな身体感覚を持った藤本さんにとって、いまの葉山の森はどう映っているのでしょう?
藤本さん 先ほどHFCでやっていることをざっと紹介したと思うんですけど、「森を楽しむために自分たちで何でもやってみる」というのが、コンセプトとしてあるんですね。
それが大前提としてあったうえで言いたいのは、だから、森は大切なんですよと、これに尽きるんですね。森がなくなったら、人は生きていけないという……。
木を切って、竹を編んで、土をつけていけば家になる
森のなかでの活動
田浦ってありますよね?
二子山山系。三浦半島の中央部を南北に連なる丘陵地帯で、三浦アルプスとも呼ばれる。北東側の山裾には横須賀市田浦の町並み、反対の南西側には葉山の上山口や一色地区が広がっている。
幼少期の藤本さん。森や海など、自然のなかで過ごす時間が多かったという。
記事で拝見したんですが
人から見える葉山#2(大澤真美)
https://note.com/mamiosawa/n/n81d4328f78f0
井島さん ちょっと質問していいですか? 先日、森林未来会議に行かせてもらってすごく感動したのですが、そのなかで(ゲストで登壇された)速水(享)さんが三浦の森を歩かれ、日本の森や世界の森と比較されていましたよね。
こうした全体を俯瞰するなかで、葉山という地区の森にどう光を当てていくか?
そのときに気になったのが、林業という分野で見ると相対的にどうしてもスケールが違うという話が出てきますが、でもだからこそ、それとは違う価値、森としての美しさとか、最適な環境というものが求めていけるんじゃないかと。
(速水さんから)そういう言葉があったと思うんですけど、すごいなと思って。森そのものを、植林っていう見方とは別のチャンネルで、その地域の環境にとってどうあるか? その点にとても興味があるんです。藤本さんは、そのあたりをどう受け止め、何を描こうとされているんでしょうか?
藤本さん ありがとうございます。いま、日本でいう林業というのは、木を切って、搬出して、売るという商売なんですよ。
農業とか漁業もほとんど同じなんですけど、これらと比べると、林業ってすごい時間軸が長い産業で、植えたものが売れるのが50年後くらいなんですね。
だから、(商売として)厳しいと言われているところもあって、実際、そうした林業はこの三浦半島の森では成り立たないことはわかっているわけです。
これはもう、誰がなんて言おうと絶対に成り立たない。なぜかというと、人工林がないから。
人工林と天然林の違いって、わかりますか?
簡単に言うと、戦後、燃料などいろんなものに使って、木がなくなっちゃったんです。葉山も禿山だったことを僕自身は聞いて知っているだけなんですけど、そこからはもう国策で植えましょうと。戦後の拡大造林って聞いたことがあると思うんですけど、もう日本中でスギを植えまくったわけですよ。
そのスギがいま樹齢50〜70年ぐらいで、これは戦後の拡大造林で植えられたスギやヒノキの木なんですね。
いわゆるこの戦後に植えたスギ、ヒノキの林というのが人工林なんですよ。で、いま日本で木材生産されてるほとんどのは、スギとヒノキなんですね。
戦後に植えた木を伐採し、山に道をつけて搬出したものを、住宅とかいろいろなものに使っている。そういうスギが三浦半島にはほとんどない。多分、一割もないんじゃないですか?
葉山の森は869ヘクタールあるんですが、そのうちの164ヘクタールが人工林。でも、話にならないです。これを切って売って、どうこうなる話じゃない。道もないですし。
しかも、山のギリギリのところまで住宅を建ててしまったので、ここは国からはじまり、行政や政治、町づくり、都市計画の失敗だと思うんですよ。
町の条例で「家を建ててはいけない」とすればよかったのに、土地が売れるものだから、もう崖の際まで住宅地として開発してしまったわけですよね。
その結果、住宅地が密集しすぎて、道もつくれないので、そういう人工林を切って搬出してという林業は成り立たない。
そもそも、お金がかかるし、回収するまでに何年もかかる、成功するか失敗するかもわからないから、なかなかやれる人がいないというのが大前提ですね
井島さん
井島健至。カメラマン。当日参加者の一人。今回のnowhere HAYAMA 100の撮影も担当。
速水(享)さん
速水享さん。三重県の速水林業の9代目代表。日本の林業界で先進的な取り組みを行っている。
https://hayamiforest.com
HFCで整備した森の視察に訪れた山梨崇仁・葉山町町長を案内する藤本さん。
藤本さん では、スギやヒノキ以外にどんな木が生えているかというと、代表的なもので言えば、サクラ、ケヤキ、エノキ、クヌギ、マテバシイ、コナラ、スダジイとか、いわゆる落葉広葉樹や常緑照葉樹、あとは竹林もありますね。「薪炭林」と呼ばれる、昔の人が薪や炭にした樹木がほとんどです。
これらも人工林と言えば人工林なんですけど、天然林に近い形の森でもあり、やはりその木を伐採して売るというのは「生業」として難しいわけです。
となると、未来会議に来られた中村先生が言っていたんですけど、木を切るだけが林業じゃないと。森に入って気持ちいいとか、楽しいとか、そういう森林空間を利用することも林業の一つ、そういう活用の仕方がいいんじゃないか。
たとえば、トレイルランやマウンテンバイクが楽しめるように森をゾーニングして、道をつけ、キャンプ場をつくって、大人も子供も遊べるようにするのもいいですよね。
あとは、イノシシを捕まえて、さばいて、これを食べるとか、山の下のほうの谷戸と呼ばれているエリアを里山として復活させて、畑をつくるとか、ワークスペースに活用するとか、いろいろな使い方があると思います。
実際、キャンプ場をやりたい人とかもいるんですよ。
だけど、なかなか実現しない。なぜなら、やろうとするといろいろいろな問題が出てくるからです。
昔から住んでる人たちが許さないということもあるし、先ほど話したように、現地にうまくアクセスできないとか……。
最終的なビジョンとしては、そうした活動によってお金が落ちて、稼いだお金で森を整備し、また次の森へ循環させていく。
それも一つの林業なので、実現できるとは思うんですけど、そもそもの問題として、森に入れないんですね。行ったらわかると思うんですけど、人が入らないまま何十年も放置されてしまっているので、もう入れない。
だから何かをやろうという前に、まず森をきれいなものにしようという話なんです。
蔓が巻いていて、竹がバーって密集していて、目の前が見えなくて、道がどこかもわからない。
もちろん、それも自然の姿だと思うんですけど、森を使おう、森と一緒に生きようとするならば、まず入れなきゃいけないということになるじゃないですか。
草刈りもしなきゃいけないし、藪漕ぎもしなきゃいけない、道もつけなきゃいけない、それをやるためにはやっぱりお金がかかる。
僕たちはボランティアでやっていますけど、ボランティアだけではできない部分があって、そこをどうクリアしていくかが、HFCの一つ課題でもあるんです。
日本全体で見ると、国から補助金が下りてきて、人工林を対象に森林の整備をやる事業体にはお金が出るんですよ。
もちろん、お金が出ないからとずっと待っているわけにいかないので、自分たちのできる活動をしていかなければいけない。いろいろな活動をして、行政を振り向かせたり、町民の理解を得ていかないとならない。
たとえば、葉山町が森林税という独自の税をつくって、町民全員からお金をいただければ、毎日誰かが森を綺麗にする、たとえば、間伐したり、枯れている木があったら伐採したり、それはすぐにできると思うんです。
いま、そういう税金がないなかで森林整備や木の伐採などをしているんですが、たとえば、通り沿いに伸びている大きな木は、ルール上、土地の所有者が切らなきゃいけない。
山を持っていて、山の際まで住宅街があって、こっちは山の所有者さん、こっちは家の所有者さんと境界が別れていて、家のほうに木が伸びてしまってちょっと危ないと。
行政に言っても、「いや、これは森林所有者に言ってください、我々の管轄じゃないんで」となるから、所有者に「これ切ってよ」ってなるじゃないですか。
森のなかだったらチェーンソーでパーっと切り出せばいいですけど、住宅はそれできないから、15人で2日間、ダンプを出して、クレーンを出して、高所作業車を出して……。見積もりすると、一本切るのに80万円かかるんです。一列として。
一応、町は補助金を出すんですけど、10万円しか下りない。それに頭を悩ませているところがいっぱいあるんですが、山をまずきれいにしないことには、現状は変わらない。
そうすれば自然と人があって集まってくるので、先ほど話した森の可能性についても議論できると思うんですが、現状、そこまで行くのが大変なんですね。
僕たちも、こうした活動だけだと食ってはいけないので、まず本業があって、社員さんがいて、会社がちゃんとまわっているから、こういう地域貢献にも力を注ぐことができている。
ただ、いまの規模ではできてはいるけど、ここから先はもうスケールが大きすぎるし、多分、このままやっていっても挫折するというのが現状なんですね。
谷戸
谷にできた小さな平地。三浦半島や湘南地域でよく使われている。
葉山には、荒れたまま放置された竹林も少なくない。
間伐する前の広葉樹林地の選木。
木下通り(葉山町堀内)の大径化し、危険木となったダブの木の伐採風景。
森林税
森林環境税。全国規模では、年間1,000円が課税され、都道府県や市町村に分配。地元の森の手入れ、環境学習、間伐材を使った公共施設の整備に使われている。
藤本さん 三浦半島で林業という産業を自立させたい、それがHFCの活動を続けていく一番の理由だと言ったんですけど、もっと大事なのは、森に入ると気持ちいいからなんです。
気持ちいい、楽しい、美味しい……、そうした感覚があるから山に入る。それは海に行くのも同じですよね? 僕自身、気持ちいいから海に行くということもあるし、やっぱりここを大前提に、林業という産業を復活したいという思いがある。
いまの時代、SDGsとか、多様性を守るとか言っているじゃないですか。土砂災害を防ぐとか、炭素固定とか、カーボンニュートラルとかよく聞きますし、僕もそうなったらいいと思うんですけど、現実とかけ離れてないかと感じるんです。
だって、僕が林業でちょっと森に入ったからといって、それだけで土砂災害は防げないと思うし、多様性云々と言っても、800ヘクタールある葉山の森のうち、実際に人の手が入っているのはほんの一部でしかないわけです。
そこで何かやったからといって、何が変わるのか? 正直、根本はそこじゃないよっていう思いもありますね。
―― 森が荒れたという表現には、人にとって気持ちいいか悪いかという前提がありますよね? 僕たちも生き物なのだから、それって大事な感覚だと思うんですが、その気持ちいいかどうかの分け目って、どこにあるのか……。
藤本さん 整備する大きな理由はたくさんあるんですけど、やっぱり入れないというところですよね。(写真を指しながら)これを見てください。上山口なんですけど、僕らが草刈りしたのでこの部分は歩けるわけですよ。
この部分で20畳ぐらいかな……、整備したから何かができるわけですよね。だけど、もそれ以上のことはできない。(別の写真を指して)ここを整備したらこうなったんですよ。
―― すごい。全然違いますね。
藤本さん これはひとつの考え方なんですが、たとえば木の桶とプラスチックの桶がありますよね?
使い勝手が良いのはプラスチックの桶かもしれないけれど、僕は木の桶が好きなんです。
なぜかと言うと、製造過程のエネルギーの消費ってこのプラスチックのほうが多いんですよね。あと、プラスチックはどこから来たのかわからない。原材料は、もしかしたら海外からすごいエネルギーを使って持ってきたものかもしれません。
しかも、使い終わってゴミになったら、うまく処分できない。でも、木の桶だったら燃やせばいい。
燃やしたらCO²が出るっていうけど、吸収したCO²を放出しているだけなので、プラマイゼロなんです。
そういう視点で、AかBかというときに、僕はより良いほうを選びたい。つまり、人にとっていい、生物にとっていい、環境にとっていい……、それを選ぼうとなったら、やっぱり森に入らなきゃいけないじゃないですか。
でも、さっきのような状態だと入れないので、木も切れない。切った木を出すこともできない、できないからつくれない。だから、素材の選択も大事だと思いますね。
―― やはり、整えていくことが大事なんですね。
藤本さん 上山口の近所にTelacoyaというフリースクールの幼稚園があるのを知っていますか?
もともと幼稚園の散歩コースで山に入れるところを探していたようなのですが、いまはここに子供たちと散歩に来て、お弁当を食べて帰ったりしているんです。
だから、ちょっと道をつくるだけでそういうことができるわけです。子供たちへの森林教育って大事だなと思いますし、これも一つの森林空間利用ですよね。
こうすけ 葉山の山のなかで、いまどのへんが気になってますか?
藤本さん ……全部ですね。気持ちいいとかそういう話を抜きにすると、危険木を切ることや防災が優先すべきことだと思うんですよね。お金がないので全然できてはいないのですが……。矢部さん、何か今後の課題はありますか?
矢部さん 上山口の唐木作という、滝の坂(の交差点)を降りて、逗葉新道に抜けるトンネルがありますよね? この近くにある葉山眠具の脇道から入っていった奥にある谷戸をHFCのみんなで開墾して、ここでアオリイカの産卵床の木を集めたり、いろいろなことをやっています。
普段我々が都会で過ごすのと全然違う環境があるので、それだけでもいいのかなと思うんですが、葉山にはまだまだこういう空間がいっぱいあるんですね。
美宝子さん 私、じつは唐木作6班の班長をしているんですが、まだまだ知らないところがたくさんあるんだなって。
私はチャレンジャーだから、遠回りしてみたり、寄り道してみたり、いろいろなところに入るんですが、ここまではたどり着かなかったんですね(笑)。ちょっと外れたところに、蛍は見に行っていると思うんですけど……。
矢部さん 設計図がなくて、水も道路も、みんなが自発的にいろいろとつくっていくんです。水がどう流れるのか? 崖があるところに土留をどうつくるか? もう全部がDIY、日曜大工で、そういうところがすごく面白いですね。
あめみー バイオトイレの話をされたらどうですか?
藤本さん プラスチックの公衆トイレってあるじゃないですか。あれはいやなんですよ。新築現場で使っているんですけど、そもそも持ってこれないですよね。
(写真を指しながら)ここの川から石を4つ拾ってきて、この石の上に(小屋を)つくったんですよ。
このなかに木でつくったトイレがあるんですけど、おしっこはホースで浸透させて、うんちはこの下にある杉のおがくずが入った箱に落ちるんです。バイオトイレって僕は呼んでいるんですけど、仕組みはそれだけです。
使用したあとのトイレットペーパーは燃やして、なるべくおしっことウンチが混ざらないようにしています。
ウンチだけを杉のおがくずのなかに入れればほとんどにおいがしないし、(バイオトイレを)普段は全然使っていないので、一年に数回とか入れ替えれば問題ないと思っています。
伐採した木でベンチをつくり、さまざまな場所に設置している。上・横須賀市役所、左・葉山町役場。
ベンチは、葉山にある工場で製造している。
写真を指しながら
整備前の森
整備後の森
Telacoya
「おうちえんTelacoya921」。葉山町長柄を拠点に、一般社団法人Telacoya921が運営している認可外幼稚園。
https://www.telacoya921.com
矢部さん
矢部満さん。HFC会員。葉山在住、防災の専門家として、ランドスケープ・プランナーの滝澤恭平さんらとともに、「葉山グリーンインフラ研究会」も運営中。
滝澤恭平さん
https://nowhere-japan.com/hayama/articles/013/
美宝子さん
横田美宝子さん。当日の参加者の一人。
おやつ&デリ「3pm」(さんじ)オーナー。
https://nowhere-japan.com/hayama/articles/001/
バイオトイレ
葉山・上山口にある唐木作の森につくられたバイオトイレ。
―― いままでいろいろなお話を伺ってきましたけど、次は森のなかで皆さんと対話したいですね。葉山の森を一緒に体感したい場合、まずどうしたらいいでしょう?
藤本さん 情報を得るという点では、HFCの会員になるのが一番早いかもしれません。
ただ、何のために会員を募っているかというと、僕たちは全部ボランティアでやってるんですね。いろんなことをやるためには、たとえばチェーンソーも必要だし、燃料も必要だし……、ただ、全部を自前でやるには限度がありますよね。
では、どうするべきかというと、お金をみんなから集めて、そのお金を公平に使って活動していく。そのためのお金であって、まずそこが大事だなって感じるんです。
―― まず森の保全ありきなんですね。
藤本さん はい。みんな知らないだけだと思うんですね。だから、仲間を増やし、そのなかで問題を共有し、みんなでお金を出して、そのお金で森を良くする。
結果として、それがみんなに返ってくるというところがまず大事だと思うんですね。
こうすけ 皆さん、まず会員になってください。お金から逃げないということは、僕も本当に大事だと思っていて。
藤本さん 会員になると、グループで情報を発信していてわかりやすいですが、関心のある方はまず、HFCのインスタをフォローしてもらえたらいいかもしれません。
ただつねに情報が更新されているわけではないので、活動に参加したい場合、メッセージを送ってください。そうしたら「この日にこういうことをやってます」とお伝えします。皆さん、だいたいそんな感じで来られるので……。
―― 今日、ここまでご一緒してどうでしたか?
藤本さん 自分のやりたいことの整理がついたと思いますが、やっぱり思いを伝えることって難しいなって思いました。でも、呼んでいただいてよかったです。
矢部さん ぜひ、対話会を葉山の森でやりましょう。
こうすけ そこで葉山の歴史とか伺いたいですね。
藤本さん 矢部さんの言う通り、行ったほうが早いです。ただ森にいるだけでもいろいろ感じるので、おにぎり持って、最高ですよ(笑)。ぜひご一緒しましょう。
―― 今日はありがとうございました。
藤本さん ありがとうございました。
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