nowhere HAYAMA
葉山の対話 2023ー2025 13

雲が綺麗で、
水蒸気に囲まれた暮らしが、
葉山という土地の「癒し」に
つながっている気がします。

滝澤恭平さん Kyohei Takizawa

葉山のみずみちという言葉を耳にしたのは、
いつのことだっただろう?
2022年1月、この水みちをたどるツアーに参加した時、
場をコーディネートしていたのが、
ランドスケープ・プランナーの滝澤恭平さんだった。

ちょっとわかりにくい肩書きに最初は戸惑ったけれど、
町制百周年にからめてお会いするうちに、
〝みずの流れ〟を通して環境をとらえる彼の視点に興味が湧き、
カフェテーロ葉山に有志を集めて、
hayama creative dialogueという
対話スタイルの学びの場を開く機会にも恵まれた。

滝澤さんが大事にしているのは、
地域の人たちが手を取りあい、ともに自然環境を育んでいく
スチュワードシップという世界観。
対話の場の彼の言葉を再録しながら、
みずみちを通して土地と人をつなげるビジョンに接続したい。

滝澤恭平
ランドスケープ・プランナー。工学博士。株式会社ハビタ代表取締役、東京工業大学、国士舘大学非常勤。大阪大学人間科学部卒業後、角川書店、工学院大学建築学科を経て、ランドスケープデザイナーとして勤務後、全国の水辺のまちづくりや河川再生を精力的にサポート。九州大学工学府大学院博士課程修了。著書に『ハビタ・ランドスケープ』(木楽舎)など。
2020年に葉山に移住、以来、地域の人たちと関わり合いながら、災害対策も視野に入れた「葉山みずみちスチュワードシップ」の実践を続けている。
https://habita.jp
https://www.facebook.com/kyohei.takizawa.7
twky00&gmail.com(&を@に変換)

収録:2023年7月14日 @カフェテーロ葉山
編集:
長沼敬憲 Takanori Naganuma 
長沼恭子 Kyoco Naganuma
撮影:井島健至 Takeshi Ijima @花の木公園

皆さん、滝澤と申します。よろしくお願いします。
私は、ランドスケープのプランニングやデザインの仕事をしていまして、ランドスケープというのは「自然環境を美しく、機能的に整えるため、地形や水の流れ、植物をどう扱うか?」ということを課題にしています。
これから少しずつ具体的にお話ししたいと思っていますが……、
たとえば、自分が住んでいるのは実教寺という葉山の一色にあるお寺の近くで、(プロジェクターの写真を指し)2階のバルコニーから見える景色はこういう感じになっています。

この雲の感じ……、毎回いろんな雲が見えるのは、皆さんも葉山に来て感じていると思うんですけど、なぜこんなに綺麗なのかなっていうことを結構考えたりしています。
これは一週間前の昼に撮ったんですが、海のほうから冷気がやって来て(写真1)、霧がバーっとかかっていったことで、その日はエアコンを入れているみたいに涼しかったんですね。あと、こんな感じに夕陽が燃えるような日もあったり(写真2)、「葉山の景色って、本当に飽きないな」って感じています。
今日は「なぜ葉山が癒されるのか?」という話もしてほしいとリクエストさているので、自分なりの仮説を話そうと思うんですけど……、葉山では、こういう風景がぱっと見えたり、天気が結構複雑で次々に移り変わってくる。

それってなぜなのかと思うんですけど、こういう写真を見ていると、海のほうから雲が上がってきて、それが山に沿って展開していくことが感じられます。
山が多くあるところは雲がかかっていたり、こっちの一色住宅があるところも上のほうに雲がかかっていくような感じで(写真3)、自宅から見ていると、こういう形で雲が広がっていくパターンが多いと思うんですね。
山の形に沿って水蒸気が発達していくため、(葉山に暮らす)私たちは水蒸気に囲まれた生活を送っている……、それがある種の癒しにつながっている気がしています。

ただその一方で、これは一ヶ月前、6月の大雨のあとなんですが(写真4)、こんな感じに一気に水が湧いてしまう。
ここはうちの近くのお墓なんですけど、ここってじつは水が湧くポイントで、ここから溢れた水はどんどんと違うところに流れていってしまうんです(写真5)。
地図1に切り替えながら)これは水の流れを地形で表現するソフトを使って葉山周辺を表示したものなんですけども、このお寺のお墓のところから水が出て、葉山大道の交差点あたりに流れていくのがわかると思います。

この一帯って新しい、シーライフパークという住宅地なんですけど、もともと川があったところに盛り土をしているので、やっぱり水が集まりやすくてですね……。
このあたりも普段は住宅地の水が集まるところなんですけど(写真6)、雨の日は本当にこういう感じにキャパシティがオーバーして、水が溢れた状態になっています。
この一帯も(写真7)、もともと森だったところが、木が切られて開発されるようになったことで、大雨が降るたびに水が溢れるような状況になっています。
通常、側溝などから雨水管(下水)に入った水は河川へ流下していくのですが、 ゲリラ豪雨などで下水道の流下能力を越えてしまうと、マンホールから水が吹き出してしまうんです。

地図1

Note.1

ランドスケープ
ランド(土地)+スケープ(景観)。人と土地のあり方をとらえなおし、再構築することがランドスケープ・デザイン。


自分が住んでいるのは
現在は一色のべつの場所に移転。


バルコニーから見える景色
写真1

写真2

写真3


6月の大雨のあと
写真4

写真5

写真6

写真7


こうした現象は都市でも起こっていて、ニュースでもよく見られるように、マンホールから水が噴き出したりすることが往々にしてあるんです(写真8、9)。
 また、主要な都市の下水道は、合流式下水道といって生活排水(汚水)と雨水を同じ管に流す方式の下水道なので(図1、2)、降った雨が下水道を通って川に出ることで、雨のあとの都市の川はトイレットペーパーが管についていたり、汚水が川に出てしまい、河川環境が悪化しています。

合流式下水道
図1

図2

 これを改善していくには、いろいろな場所に雨水を貯めたり、浸透させることで、下水や川に一気に水を流さないようにすればいい。これがグリーンインフラという考え方で、いま、日本でもいろんな都市で行われるようになっています。

 また、治水に関しても、国交省が「流域治水」という政策を新たに始めるようになりました。
 いままでは川に堤防をつくり、深く掘り下げて早く水を流し、まちを守っていくというものでしたが、

流域全体で様々なひとたちが雨水をしみこませたり、貯めたりして、水をゆっくりと流しまちを守っていく

という方向へ、明治時代からずっと続いてきた治水政策を大転換させたんですね。
 これは気候変動対策がベースになっていて、もう河川や堤防だけでは洪水を防げなくなってきたということです。
 たとえば、ニューヨークのマンハッタンでも、気候変動で高潮が来て海面上昇することを防ぐため、周辺にバッファーゾーン(緩衝地帯)を設けたり、街じゅうにグリーンインフラをたくさんつくったりしています(図3)。
 スポンジ・シティという言葉があるんですが、道路の雨水も植栽枡に入れて浸透させるなど、街全体をどんどんスポンジ化させていくことで、水を浸透させていくのはもちろん、それが街の温度を下げることにもつながります。

 つまり、一人一人がボランタリーに地域と関わり、水を浸み込ませるために植栽を管理することでエリア全体にグリーンインフラが増え、水がきれいになる……。
 こうした取り組みは、ニューヨークもそうですし、デンマークのコペンハーゲン、イギリスのロンドンなど、いま世界中のいろいろな場所に広がってきています。
 私が考える理想のまちというのも、このような形で水が浸透貯留する仕組みをつくることで、そこに棲む生き物たちにとっても、暮らしている人たちにとっても快適な場を生み出していくというところにあると思っています。

グリーンインフラによる自然共生まちづくり」と呼んでいるんですが、まちなかの様々な場所に雨水を貯め、土に浸透させ、下水道への流入を減らし、浸水被害を減らしていく。
 その結果、多様な生き物が共生し、同時に、人も健康で生き生きとした暮らしを楽しむことができる……、そんな豊かなまちづくりが実現できると考えているんです。

グリーンインフラによる自然共生まちづくり(©️滝澤恭平)

 ちなみに、私は3年前に東京の吉祥寺から葉山に移住し、一色の界隈で暮らすようになりました。
 吉祥寺もいい街で、住んでいて全然不便はなかったんですけども、やはりコロナになってから考え方が変わったというか……、狭いアパートとかマンションのなかに一人でいるよりは、こういう環境のところに来て、いろいろな人たちと関わり合っていったほうが、やっぱり楽しいですよね。
 仕事がリモートでやれたこともあって葉山に移り住み、先ほどのグリーンインフラを葉山で実践するため、フィールドワークを始めるようになりました。
 
 もともと東京にいた時も、「善福寺川を里川にカエル会(善福蛙)」を運営するなどして、地域の皆さんと協働しながら、水辺の再生や環境教育に取り組んできたんです。
 善福寺川のプロジェクトでは、長らく放置されていた善福寺公園内の水路を再生するため、地域の人たちとともに水路の調査やビジョン形成も行っています。
 地元の子供たちが描いた「夢の水路」の絵を杉並区長にプレゼンテーションしたことを機に計画が具体化され、2019年には子どもたちが安全に遊べる親水空間、在来種の水生植物が生息する環境などが整備されました
 こうして培った「都市部での自然再生のノウハウ」を、葉山のような自然豊かな地域に応用することが、地域再生の新たなステップなのかなと感じているところです。

Note.2

写真8

写真9


グリーンインフラ
ニューヨーク市・ゴワナス運河周辺のグリーンインフラ整備事例。


植栽や溝などで道路の雨水を受け止め、浸透・浄化しながらゆっくりと流す都市型の水循環システム(Bioswale バイオスエル)を取り入れている。


善福寺川のプロジェクト
杉並区(東京)を流れる善福寺川の再生を目的に2011年に設立。


 いま皆さんにお見せしている地図2−1は、葉山の水みちをGISというソフトで分析したものです。
 ご覧になるとわかると思うんですが、葉山って小さいエリアのなかに標高差が意外とあって、細かい水みちが集まって海に向かって流れている感じになっていますよね?
 これを大きく見ると、葉山には下山川森戸川という2つの水の流れがあって、どちらもほぼ町内だけで源流から河口まで流域が完結しているんですね。
 この2つの川の横軸のラインに、葉山層群とか三浦層群と呼ばれる地層が走っていて、場所によっては、川が侵食して谷になって流れてくるため崩れやすく、複雑な地形になっています。
 また、葉山には「こみち」と呼ばれる小さな細道のネットワークがたくさんあり、かつての農道や旧道であったことが多いのですが、水みちも小さな水路や暗渠化されている部分が多く、全面的には流れが見えないようになっています。

地図2-1 GISで作成した葉山の水みち

 たとえば、町役場の隣に花の木公園があって、その向かいに消防署の交差点があって、ここに新しくクラフトビール屋さんができましたよね?(地図2-2
 このクラフトビール屋さんの裏に小さい開渠があって、じつはここにも源流があるんです。この川は図書館のあたりを通って、この森戸川に合流して海に出ています。

地図2-2

 こうした水の流れは、先ほど話した災害とも関わり合っていて……。たとえば、一年くらい前、一色にあるパークド四季の近くで土石流が発生した時、下山川水系の支流の沢から水があふれて道を下り、だいぶ先まで泥が堆積していました。
 こうした雨の日などに目の当たりにする光景は、じつは小さな水みちが経路になって雨水が流れることによって起こっているということが、だんだん分析することでわかってきました。
 葉山ってすぐ家の後ろが急傾斜で、家が山に迫っているので、山から水がたくさん流れてくるとすぐにまち中に溢れてしまうため、災害リスクも結構あるんですね。
 海から運ばれてきた水の分子が大気の中で混ざり合うことで癒しを生み出す一方で、災害のリスクも潜在している。
 葉山をフィールドワークするなかでそういう背景が見えてきたこともあり、「どうすれば災害とか防げるのか?」ということを考えるようになったんです。

Note.3

GIS
Geographic Information System(地理情報システム)。地図上に情報を重ねて可視化・分析することができる技術や仕組み。


 先ほどお見せした地図3(「森戸川の水みちマップ)をつくったあと、地域の皆さんと一緒に葉山の流域を歩く、「葉山みずみちウォーキング」を行いました。

地図3 森戸川の水みちマップ

 このみずみちウォーキングでは、森戸川流域のいろいろな場所に寄り道し、さまざまな地形を感じながら、災害時に水が漏れ出ている場所を確認していきました。
 葉山はこみちがたくさんあって素敵なんですけど、「雨の日には、ワーッと滝のように水が流れてくる」と地元の町内会の方が話されている場所があったりします(写真10-1、2)。
 現場を見ながら、「こういうところに水が浸透する場所をつくれるといいよね」といった話がありました。
 たとえば、この道の上からも滝みたいにザーッと流れてくると言われていて(写真11)、横断側溝から縦の雨水側溝を切り替わるポイントで溢れるんですね。
 このポイントにあるコンクリート枡を、浸透枡(土中に雨水が浸透する枡)に改良できないのか?(写真12) 
 地域の人たち主導による「市民普請」によって改善できるはずだという声もあがりました。
 また、この家の玄関の庭には、雨が降ると上の坂から水が入ってしまうため、住民の方から「ここにレインガーデンができないか」と言われたり……(写真13)。
 去年7月の台風で発生した土砂崩れの現場も訪れましたが(写真14)、近くにあった砂防堰堤のおかげで、土砂が住居に流入するのが食い止められたようです。

 一方、この水みちをたどっていくと、水田のある開けた丘陵地に出るんですが(写真15)、ここにあった砂防堰堤は倒木で埋まってしまっていました(写真16)。
 葉山の自然って美しくていいんですけど、ここは災害のリスクもあって危ないですし、じつはこの樹林も、この50年間、誰も木を伐っていないんですね。
 50年前の葉山の写真集を見たことのある人もいると思うんですけど、(一色の)三ヶ丘のあたりは全部禿山ですよね。
 当時、薪炭林として薪とか炭に使われていたので、森林の利用率がすごく高ったんですけど、エネルギーが石油と石炭に切り替わって誰も使わなくなって。
 そこからずっと森が放置されてきたため、いまでは倒木も多いし、木々が無秩序に茂る状態になっていて、土砂災害につながりやすくなっているんですね。
 水みちをたどったあと、堀内にある古民家の平野邸で参加者の皆さんと意見交換し、「この現状をどうすればいいんだろう?」と一緒に考える時間をもつくりました(写真17)。

写真17 古民家・平野邸で意見交換も

Note.4

葉山みずみちウォーキング
写真10-1 擁壁の下の水抜きから常時地下水が出ている。

写真10-2

写真11 雨の日は道が川のようになる

写真12 横断側溝から縦の雨水側溝を切り替わるポイントで、雨水が溢れる。

写真13 上の坂から玄関の庭に水が入ってくる家も。ここに、レインガーデンができないか?

写真14 2021年7月台風時の土砂崩れの現場

写真15 水みちの先にあった水田のある丘陵地

写真16 倒木で埋まった砂防堰堤


50年前の葉山の写真集
『葉山風光 チャールズユンカーマン写真集』(用美社 2021年)


古民家の平野邸
平野邸Hayama
https://hiranoteihayama.com


 こうした現実をふまえつつ、「葉山でグリーンインフラをやるとしたら、どんなモデルがいいか?」、自分なりに考えてみたのが図5です。
 まず斜面の管理をどうするか? 山側にある木が大きくなりすぎると、斜面が安定しにくい状態になったり、光が林床に入らなくて、下草が生えにくくなったりするので、もう少し下草が生えるような状況にするとか、粗朶(伐採した枝)を使った杭を打ち込み、網で土砂を止めることで地形を安定させるとか……。
 そうやって森に降った雨が土中に染み込んで、ゆっくりと平地のほうに流れていく状況をいかにつくっていくか? そのあたりがまず課題としてありますね。


図5 斜面林から市街地へのグリーンインフラ・モデル

 次に、家の前にバッファーゾーンをどうつくるか? 
 土砂災害があったとしても、家に来る前に土砂を受け止めるゾーンがあれば、被害を食い止めることができますよね?
 昔は水田とか畑がバッファーになって水を溜めていたり、前後に湧水の溜池や水路をつくって、流れてくる水を一時貯留していたり、砂防樹や生垣などを用意したり、さまざまな工夫をすることで災害に備えていたんですね。

 いま、それが難しくても、家の庭にレインガーデン(雨庭)をつくって水を溜めるのはおすすめです。
 レインガーデンってこんな感じになっていて図6)、雨樋を途中でカットすることで屋根から流れてくる雨水を庭に誘導して、水を地中に浸透させていくことが目的です。
 こうしたレインガーデンをつくることで、雨水が一気に下水道に行くのを防いでくれますし、雨の日は水が溜まって池のようになりますけど、砂利の混じった土を敷いて、湿っぽい場所が好きな植物を植えたりすることで、お庭にいい感じの水の風景ができたりすると思いますね。
 これは、家庭でもできるグリーンインフラの一つと言っていいですし、こうした形でバッファーゾーンをつくることで地中に水みちのネットワークが生まれ、土地の水の循環が健全化することにつながっていくと考えています。

 それで、まずは葉山にレインガーデンをつくってみようということで、地域づくりに関わっている皆さん、一般社団法人はっぷ、葉山環境文化デザイン集団、エンジョイワークスなどの協力を得て、2022年、前述した平野邸の庭園を利用してレインガーデンづくりにトライしました。
 (写真18〜21を指しながら)ここに雨樋があるんですけど、それをカットして、放置されていた昔の防火用水升を使って、そこで水をいったん受け止めて。
 この升から溢れた水を竹でつくった樋で導いて、庭にある池にお庭に散水してあげる形に整備していきました。
 この池には葉山の固有種である黒メダカが棲んでいるので、その黒メダカにフレッシュな水をあげて、より棲みやすくなる生息環境をつくることを目的にしています。

 また、竹の樋が池に流れ込む周辺には、葉山の海岸で採ってきた石を敷いたり、ツワブキのような海辺の植物を植えるなどして、葉山らしさを演出しました。
 樋に使った竹は上山口の竹林から切り出し、みんなで平野邸まで運んで、子供たちも混ざって竹を割ったり、庭に設置したり、すべて手づくりで完成させました。
 なるべくお金をかけず、毎月少しずつ、時間がとれる人が手を入れていくことで、「レインガーデンって誰もが手軽につくれるですよ」と伝えたかった面もありますね。
 いま、平野邸は地域のコミュニティハウスとして利活用できるんですけど、こういう場所でグリーンインフラのあり方を説明できるのは有難いことだなと思っています。

Note.5

図6 レインガーデン


地域づくりに関わっている皆さん
一般社団法人はっぷ 
https://www.happ.life
葉山環境文化デザイン集団 
https://www.hayama-design.org
エンジョイワークス 
https://enjoyworks.jp


写真18 葉山堀内にある古民家・コミュニティハウス平野邸

写真19 雨水を竹で導水し,葉山固有種メダカの池に給水

写真20 葉山の里山の竹を切り出して使用

写真21 地域の人たちと一緒にレインガーデンをつくる


 あと、こうした活動を続けていくうちに、役場の隣にある花の木公園近くの道路が、雨が降ると、公園から多量の泥水が流れてくることがわかってきました(写真22)。
 ここは通学路で、この近くには一色小学校、葉山中学校もあるので、こんな状態になってしまうと危ないですよね。町から「グリーンインフラで何とかできないか」と要望されていたこともあり、公園の周辺の調査を始めることにしたんです。

 まず、どうしてこういうことが起こるか? 一つは、花の木公園の地面がローラーなどで踏み固められていて、雨が降っても水が地面に全然浸透しないんですよね。
 その結果、水が溢れ出して、階段からザーッと滝のようになって道路にあふれていく……。
 そこで、土嚢を重ねて流末を一つにして、バケツを置いて10秒間にバケツを何回交換しないとならないか、雨の日の水の量を測ることにしました(写真23)。
 ただ、あまりにも大変だったので、葉山在住で、地盤・地下水の専門家である矢部満さんが三角堰をつくってくれて(写真24)、この三角堰のなかに水が通ると流量が観測できる測定器を使って、流量を測定するようになりました。

 あと、公園内の4ヶ所に専用のダブルリンクを埋め込んで、それぞれの場所に水がどれだけ浸透するのかを調べる、ダブルリング式の浸透試験も行いました(写真25)。
 また、レインガーデンにどれだけの効果があるのか? 2022年9月18日の大雨の時に流出測定したところ、平均60ミリの雨が11時くらいに一気に降り出し、11時半のピーク時には87ミリの雨が降って、12時近くに急に落ちてきます。
 レインガーデンを入れることでこのピークがどれぐらいカットされるかを計算したところ、10分間で3.25立方メートルあった流出が1.2立方メートルに減ることがわかりました。

 こうした結果をもとに、「台風の時に降るような60ミリの大雨の20パーセントをカットできる」レーンガーデンを、花の木公園につくる案を立てたんです。
 2023年3月4日、このデータをふまえ、「花の木公園レインガーデンワークショップ」を開き、地域の皆さんとレインガーデンづくりにトライしました。
 まず、公園全体にレインガーデンをどう配置するか? 公園の雨水が流れ込んでいく階段に近いエリアに4ヶ所、公園北東の斜面から雨水が流れ込んでくるエリアに1ヶ所、それぞれ深さ40センチほどのレインガーデンをつくることにしました(図7)。
 それぞれ最初は重機を使って穴を掘って、そのあと穴の底面に竪穴をさらに掘って、瓦や炭を詰めて、縦方向に雨水が浸透しやすいように工夫しました(写真27・28)。

図7 レインガーデンの配置@花の木公園

 そのうえに砕石を30センチほど敷いて、砕石と砕石のすき間に水が貯留しやすいようにしました。
 そして、さらに10センチぐらい土を乗せて、現地で採取した植物も根ごと、土ごと植え付けました(図8)。
 あと、土を掘り起こす過程で石がたくさん出たんですが、捨てるとお金がかかることもあり、掘削した土と一緒に公園の脇のほうに移して、土留をつくったりしました(写真29)。

図8

 当日、30人くらいの方が集まって、みんなでこうした作業をワークショップ形式で楽しくやりました。
 意外としんどい場面もあったのですが、皆さん、遊び感覚で楽しんでいただいて、本当に有難かったですね。
 見た目は普通のガーデンと変わりませんが、階段に近い4ヶ所は各0.5立方メートル(写真30)、公園北東の1ヶ所は2.3立方メートル(写真31)の雨水が溜められる仕組みになっています。
 花の木公園に立ち寄ることがあったら、意識してレインガーデンを確認してほしいですね。

Note.6

公園から多量の泥水が流れてくる
写真22

写真23

写真24

写真25


写真27
写真28
写真29
写真30
写真31


 このレインガーデンづくりは、一般社団法人葉山の森保全センター(HFC)との共催で行いましたが(写真32)、その後、 はっぷの皆さんと葉山の在来種を植えました(写真33〜36)。
 レインガーデン設置後、雨の日は水が入っていくのが確認でき、実際10〜20ミリの雨だったら、階段のところに流れ出ることはないので、ちょっと安心しています。
 台風になったらどうしようもないとは思うんですけど、10ミリの雨でも、これまでは階段に雨水がざーっと溢れ出ていたんです。
 レインガーデンができたことで、それがなくなったので、まずはよかったかなと思いますね。
 いまはすっかり土地に馴染んで、レインガーデンの上を歩いても全然大丈夫ですし、夏になると草が生えてくるので、知らない人は気づかないくらいになりました。
 ちなみに、(写真36を指しながら)これも草刈りをした後のガーデンなんですけど、全部刈りとることはせず、水が入ってくるまわりだけをカットしていて……。
 じつはこれは、「大地の再生」の風の草刈り手法を取り入れていて、真ん中のところは風が抜けていく部分だけを少し開けてあげるような刈り方をしているんです。
 風が抜けると水も抜けると言われていて、地表水をレインガーデンに導く経路をキープしています。
 時々、HFCの有志と花の木公園に行って草刈りをするようにしてますが、風の草刈りの効果なのか、草を刈るだけで自分も元気になって、よみがえった感じがあるんです。
 今後も、地域の皆さんの相談の乗りながら、いろいろな場所にレインガーデンをつくっていきたいですね。

 今後も、地域の皆さんの相談の乗りながら、いろいろな場所にレインガーデンをつくっていきたいですね。葉山グリーンインフラ研究会というゆるいネットワークをつくって活動していますので、自宅や近所の公園や道路などで雨水や水などの困りごとなどがありましたら、相談や質問などぜひご連絡ください。



土地に風を通すため、「大地の再生」の風の草刈りを行う。

Note.7

一般社団法人葉山の森保全センター(HFC)
葉山の森保全センター(HFC)
https://www.hayamanomori.org
藤本嶺(HFC代表理事)
https://nowhere-japan.com/hayama/articles/015/


写真32
写真33
写真34
写真35
写真36


大地の再生
矢野智徳さんの提唱する環境再生の手法。土地の水脈、風の流れを整え、自然本来の循環を取り戻すアプローチとして、全国各地で実践されている。


 これは場所が変わって、葉山の上山口に唐木作地図4)と呼ばれるところでの作業風景なんですが……。
 唐木作は、もともと谷戸にある耕作放棄地だったところで、いまは前述したHFCのメンバーの皆さんが、この地域の森の保全を目的に管理されています。
 僕たちがやったのは、田んぼだった場所を遊び場として再生するため、土留めをつくったことです。
 土留めは、崖のところを粗朶柵工という工法で杭を打ち込み、枝を編み込んでつくりました(写真37)。また、同じように杭を差し込み、枝を編み込んで水路も掘りました(写真38)。
 もともと原生林のような場所だったんですが、HFCの皆さんが森を開いて、道をつくり、いまではバイオトイレもでき、結構遊べる空間になってきています。
 現地を訪ね、一緒に活動したいという方は、まずHFCの主催するイベントに参加するといいかもしれません。

 花の木公園のレインガーデン、唐木作の土留め……、こんな形で身近な環境を、誰も参加できるやり方で管理していくことを、これまでずっと考えてきました。
 じつは、海外では環境スチュワードシップ(environmental stewardship)と呼ばれていて、地域でのフィールドワークのかたわら、2022年に博士論文をまとめることもできました。
 スチュワードシップとは、スチュワード(執事)という言葉も同じ語源なのですが、もともとは「委託された資産を主体的に守って管理すること」を意味しています。
 語源としては、スチュワード=「家の守護者」であり.イギリスでは,ジェントルマン=領主から土地を預かって、その土地を管理する者として知られてきました。
 要は、こうしたスチュワードシップが環境の分野でも使われてきた背景があるんですね。

 具体的には、個人やグループが身近な環境へ自主的に関わり、その環境を管理していくこと、たとえば、自分たちでレインガーデンをつくったりすることで、自分たちの住む地域の不便な状況が少しずつ改善していきますよね。
 こうした活動を積み重ねていくことが、その地域の環境をみんなで管理することにつながっていくのではないか?。
 葉山の水みちのどこかに関わり、そこにレインガーデンのような場をつくっていくことで、災害への対処にもなり、住みやすくもなり、普段は遊び場にもなる……。
 こうした意味での「地域環境スチュワードシップ」(local environmental stewardship)、僕たちはそれを葉山でやっているので「葉山みずみちスチュワードシップ」と呼んでいます。
 こうした環境の配慮、保全、再生、維持管理を行っていくつながりができると面白いなと思っています。
 こうした構想は、葉山にやって来て、ここで実践しながら生まれたものでもあり、「葉山だったらこういう方向性ってありえるんじゃないか」と感じているところです。

 また、こうした地域の取り組みを俯瞰的にとらえた場合、どの地域にも、社会的、生態系的な背景があって、同時に、住民である一人一人に何らかやりたいことの動機があって、さらには、その地域で活用できる資本がある。
 要は、この動機と資本がうまく交わると行動が生まれ、その地域の生態系、社会にとっていい結果が生まれる……、こうした流れがあると考えています。
 ポイントになるのは、次の5つでしょうか。

 ① 自分のまちに流れる水の流れを面白がり、みんなでフィールドワークしてみる。水の気持ちになってみる。
 ② 機が熟してきたら、できるタイミングで小さな取り組みを楽しくやって、その成果を地域の人にアピールする。
 ③ 行政とプロジェクトを組む際は定量的な目標を仕立て、それを検証する形でスタートする。
 ④ 各自ができることをやる。いろいろなスキルをやりながら教わり、できるようになっていくことに楽しみがある。
 ⑤ 上流から下流にながれていくフローのなかに、自分たちが介在できるスポットを開発する。

 レインガーデンづくりなども、こうした流れの延長線上で生まれたものですが、何よりも楽しいんですね。
 実際にやっているのは、ガーデニングだったり、草刈りだったり、ほぼ趣味の領域なんですけど、そうした趣味が公益性につながりうるというところが面白い。
 それが葉山らしいというか……、みんなが好きでやっていることが、町全体にとって良い取り組みにつながっている、そんな活動を今後もやっていきたいですね。
 僕自身、このスタンスで関われることがあればご一緒したいと思いますので、何かあったらお呼びください。
 今日はありがとうございました。



鎌倉時代、日蓮聖人によって建てられた実教寺(葉山町一色)にて。

Note.8

葉山の上山口に唐木作
地図4
写真37
写真38


博士論文
「都市の水辺再生における地域環境スチュワードシップと関与型水系基盤の計画マネジメント手法に関する研究」(九州大学大学院 工学府都市環境システム工学)
https://api.lib.kyushu-u.ac.jp/opac_download_md/5068208/eng3242.pdf